『底地の相続税評価額』類似路線価と貸宅地評価の計算バトル
青木修一郎は、父から相続した底地について、相続税の申告準備を進めていた。修一郎自身、以前から「底地の評価は、路線価から算出した自用地評価額に、一マイナス借地権割合を掛ければいい」という程度の知識は持っていた。この地域の借地権割合は七割とされていたため、単純に計算すれば、底地の評価額は自用地評価額の三割程度になるはずだと、修一郎は当初、気軽に考えていた。父の代からこの土地を貸していた借地人とは、特に大きなトラブルもなく穏やかな関係が続いていた。
ところが、顧問税理士にこの土地の資料を見せたところ、思いがけない指摘を受けた。「この土地の地代は、年間で見るとかなり低い水準ですね。固定資産税や都市計画税とほぼ同額程度しか収受されていません。この場合、機械的に三割評価とするのは危険かもしれません」。修一郎は驚いた。三割で評価できると単純に思い込んでいたからだ。
税理士はさらに詳しく説明を続けた。「借地権割合を使った評価減は、正常な賃貸借関係が成立していることが前提になります。地代が固定資産税相当額程度にとどまっているような場合、税務上は対価性のない『使用貸借』に近いとみなされるリスクがあります。使用貸借と判断されれば、借地人の借地権の価額はゼロとされ、結果として底地の評価額は、借地権割合による減額が適用されない、自用地評価額に近い金額になってしまう可能性があるのです」。
修一郎は青ざめた。もし税務署からそのような指摘を受ければ、想定していた三割評価ではなく、はるかに高い評価額で相続税を計算し直さなければならなくなる。数百万円単位で税額が変わる可能性があると聞き、修一郎の背筋には冷や汗が伝った。「では、この土地は使用貸借とみなされてしまうのでしょうか」と尋ねる修一郎に、税理士は落ち着いて答えた。「その判断のためには、実際の契約実態を丁寧に確認する必要があります。地代の額だけでなく、契約書の有無、地代改定の履歴、借地人が固定資産税以外にどのような負担をしているかなど、総合的に見ていきます」。
修一郎と税理士は、過去の賃貸借契約書や地代の入金記録を改めて確認した。契約書には正式な賃貸借であることが明記されており、過去に何度か地代の改定交渉が行われていた記録も見つかった。借地人が長年にわたり継続的に地代を支払い続けてきた実態や、契約更新時に更新料の授受があった事実も確認でき、これらは単なる好意的な無償貸与ではなく、対価性のある賃貸借関係であることを裏づける材料になった。地代の水準自体は低くても、賃貸借としての体裁が一貫して保たれていたことが、大きな安心材料になった。
税理士は、こうした資料をもとに、この底地について借地権割合による評価減を適用する根拠を整理し、申告書に添付する説明資料としてまとめた。結果として、修一郎は当初想定していたとおり、自用地評価額のおよそ三割という評価額で相続税の申告を行うことができた。
この経験を通じて修一郎は、底地の評価は単に路線価と借地権割合を掛け合わせるだけの機械的な作業ではなく、地代の水準や契約実態まで踏み込んで検証する必要があることを学んだ。安易な自己判断で申告してしまえば、後日の税務調査で過大な評価額を指摘され、追徴課税を受けかねなかったのだと、修一郎は今回のことで痛感している。申告を終えた後、修一郎は今後の地代についても、借地人と話し合い、契約実態がより明確になるよう改定を検討し始めている。
学びのボックス
| 底地の基本的な評価方法 | 自用地評価額×(1-借地権割合)で算出するのが基本の計算式。 |
| 地代の水準による判定リスク | 地代が固定資産税相当額程度にとどまる場合、対価性のない使用貸借とみなされるリスクがある。 |
| 使用貸借とみなされた場合の影響 | 借地権の価額がゼロとされ、底地は借地権割合による減額のない、自用地評価額に近い金額で評価される可能性がある。 |
| 賃貸借関係を裏づける要素 | 契約書の有無、地代改定の履歴、更新料の授受など、契約実態を総合的に確認することが重要。 |
| 適正な申告のための備え | 機械的な計算だけに頼らず、契約実態を示す資料を整理し、根拠を説明できるようにしておくことが過大評価のリスクを防ぐ。 |




