『相続した底地』の評価額が高すぎて払えない
高橋隆一は、父の死後、思いもよらない重荷を背負うことになった。父は地元で代々続く地主家系の当主で、住宅街のあちこちに合計十数筆の底地を所有していた。いずれも古くからの借地人が住宅を建てて暮らしており、地代収入自体は決して大きくない。むしろ、周辺の地価が上昇し続けているにもかかわらず、地代は数十年前の水準からほとんど変わっていなかった。隆一自身は会社員として働いており、家業を継ぐという意識もないまま、気づけば十数筆もの底地の相続人になっていた。
問題は、相続税の申告のために税理士が算出した評価額だった。底地は更地価格から借地権割合を差し引いて評価されるとはいえ、それでも合計すると数億円規模になり、相続税額は隆一の想像をはるかに超えていた。手元にまとまった現金があるわけでもなく、地代収入だけでは到底納税資金をまかなえない。隆一は「このままでは、先祖代々の土地を売り払うか、最悪は破産するしかないのか」と、絶望的な気持ちに陥っていた。何日も眠れない夜が続き、妻にも心配をかける日々だった。
途方に暮れた隆一は、相続税に強い税理士に改めて相談することにした。「貸し付けている宅地には、小規模宅地等の特例のうち『貸付事業用宅地等』の区分が使える可能性があります。要件を満たせば、二百平方メートルまでの部分について、評価額を五十パーセント減額できるのです」。税理士はそう説明した。底地のように、借地人に貸し付けている土地は、この特例の対象になり得るという。隆一はその話を聞いて、初めて一筋の光が差し込んだような気がした。
ただし、税理士は注意点も付け加えた。「相続開始前三年以内に新たに貸付事業を始めた宅地は、原則としてこの特例の対象から除外されます。また、相続税の申告期限までその宅地を保有し、貸付事業を継続していることも要件になります」。隆一の場合、いずれの底地も父の代から数十年にわたって貸し続けてきたものばかりで、この除外規定には該当しなかった。加えて、申告期限まで売却せず貸付を続ける方針を固めていたことも、要件を満たす後押しになった。相続人自身が事業的規模で貸付を行っているかどうかは問われないため、隆一のように会社員をしながら底地を引き継いだ立場でも、要件さえ満たせば特例を使えるという点も、大きな安心材料になった。
税理士とともに、隆一は所有する底地の中から、面積要件を最大限活用できる組み合わせを検討した。複数の底地がある場合、どの土地にどれだけ特例を適用するかによって、減額される評価額の総額が変わってくる。評価単価の高い土地を優先的に選ぶなど、シミュレーションを何パターンも重ねた結果、評価額を大幅に圧縮でき、相続税額も当初の想定より大きく抑えることができた。他の相続財産とのバランスも考慮しながら、税理士と何度も数字を突き合わせる作業は根気のいるものだったが、隆一はその都度、納得できるまで説明を求めた。
それでも一括での納税は難しかったため、隆一は延納制度も併用し、複数年にわたって分割で納付する計画を立てた。延納には利子税がかかるものの、土地を手放して一括納税するよりも、長期的には家族の資産を守れると判断してのことだった。特例の適用と延納という二つの手段を組み合わせたことで、隆一は先祖代々の土地を手放すことなく、相続税を乗り越えることができた。地代収入だけでは見えなかった土地の価値と、それに伴う責任の重さを、隆一はこの経験を通じて痛感している。会社員として働きながら底地の管理を続けることの大変さを実感しつつも、次の世代にきちんと引き継いでいきたいと、隆一は今、静かに決意を固めている。
学びのボックス
| 貸付事業用宅地等とは | 小規模宅地等の特例の区分の一つ。被相続人等が貸付事業に使っていた宅地について、200㎡までの部分の評価額を50%減額できる。 |
| 適用要件 | 相続人が相続税の申告期限までその宅地を保有し、貸付事業を継続していることなどが必要。 |
| 3年以内新規貸付の除外 | 相続開始前3年以内に新たに貸付事業を始めた宅地は、原則として特例の対象から除外される(一定の事業的規模要件を満たす場合を除く)。 |
| 複数の底地がある場合の選択 | 特例を適用できる面積には上限があるため、評価単価の高い土地を優先するなど、シミュレーションによる組み合わせの検討が重要。 |
| 延納制度との併用 | 特例適用後もなお納税資金が不足する場合、延納制度を併用して分割納付する方法もある。 |




