「先生、底地が買えるチャンスなんです。早く動かないと他の人に売られてしまう」
借地に自宅を構える池田翔太(三十九歳)が税理士の清水先生に電話したのは、地主・藤本家から「底地を売りに出す」という連絡を受けた翌日のことだった。
翔太の両親は長年、翔太名義の銀行口座に資金を積み立ててきた。「将来のために」と言って、毎年数十万円を翔太の口座に入れ続け、残高はすでに一千八百万円を超えていた。底地の提示価格は一千五百万円。「名義も自分だし、これを使えばすぐ買える」と翔太は考えていた。
しかし清水先生の返答は想定外だった。「翔太さん、その口座のお金を使うと、贈与税がかかる可能性があります」
■ 「自分名義」でも自分のお金とは限らない
「名義は私ですよ?なぜ贈与税が……」と翔太は困惑した。
「名義が翔太さんでも、実質的な管理と支配が親御さんにあった場合、税務署はその口座を『名義預金』——親の財産——と判断します。通帳や印鑑を親が管理していたり、翔太さん自身が口座の存在を十分に認識していなかったりする場合がそれにあたります」
「でも、もう引き出して底地を買ってしまったら?」
「その引き出し分が『親から翔太さんへの贈与』と認定されます。一千五百万円の底地購入資金を贈与とみなされた場合、贈与税の基礎控除は年間百十万円ですから、一千三百九十万円超が課税対象。税率は最高で四十五%ですから、場合によっては数百万円の贈与税が発生します」
翔太は電話を持ったまま固まった。せっかくのチャンスが、税金の罠になりかけていた。
■ その口座は「本当に自分のお金」か
清水先生はいくつかの確認をした。「その口座の通帳と印鑑は誰が管理していましたか?翔太さんが自由に引き出したことはありますか?親御さんからの振込に際して贈与契約書を作ったことはありますか?」
「……通帳は父が持っていました。引き出したことは一度もないし、書類も何もありません」
「では税務署から見ると、そのお金は典型的な名義預金です。翔太さんのお金ではなく、父上のお金として扱われます」
「では、底地を買うために今からどうすればいいですか」と翔太は尋ねた。
■ 正しい資金の「段取り」
清水先生は三つの選択肢を示した。
「一つ目は、父上から翔太さんへ正式に贈与する方法です。贈与契約書を作成し、贈与税を申告・納付したうえで、その資金を使って購入する。贈与税はかかりますが、透明性があります」
「二つ目は、金融機関から住宅ローンや不動産購入ローンを借りて翔太さん自身の名義で購入する。翔太さんの収入と信用力で融資が通れば、贈与税の問題は生じません」
「三つ目は、底地を父上の名義で購入してもらい、将来の相続で引き継ぐ方法です。相続時の評価は底地のまま行われますから、場合によっては相続税の負担も抑えられます」
翔太は父と相談し、父名義での購入→将来の相続という方針を選んだ。三ヶ月後、父が底地を購入し、翔太の自宅は完全所有権の土地の上に建つことになった。
■ 「早く動く」前に、一本の電話を
「もし清水先生に相談せずに動いていたら」と翔太は後日思い返した。「底地は手に入っても、数百万円の贈与税を払わされていたかもしれない」
「底地の買取りは、人生の中でそう何度もない大きな取引です」と清水先生は言った。「資金の出所・名義・税務上の手続き——これを事前に整理するだけで、何百万円もの違いが出ます。焦って動く前に、専門家への一本の電話が一番のコスト削減になります」
名義預金は「貯めるとき」だけでなく「使うとき」にも牙をむく。底地という大きな資産を手に入れるためには、資金の出所を正しく整えることが最初の一手だ。
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名義預金の問題(おさらい) |
子供名義の口座でも、実質的な管理・支配が親にある場合は「名義預金」として親の財産とみなされる。この口座から底地を購入しても、資金の出所が親であれば贈与税の問題が生じる。 |
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底地購入資金への贈与税 |
親の資金(名義預金を含む)を子供が使って底地を購入した場合、購入資金相当額が「親から子への贈与」とみなされ贈与税が課される。底地の価格が高額なほど税負担も大きくなる。 |
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正しい資金の移動方法 |
①親から子への贈与を正式に行い(贈与契約書作成・贈与税申告・納付)、その後子供が自己資金で購入する。②子供が金融機関から融資を受けて購入する。③親が直接購入し、相続で引き継ぐ——いずれかが適切。 |
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底地・借地権の同時取得における注意 |
借地人(子)が地主から底地を購入して完全所有権にする場合、購入資金の出所が問われる。取引自体は合法でも、資金移動が不適切なら税務問題に発展する。 |
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税理士への事前相談が不可欠 |
底地の買取りは金額が大きく、税務上の論点も複雑。購入前に税理士に相談し、資金の出所・贈与税・譲渡所得税などを整理したうえで進めることが必須。 |




