見知らぬ明治・大正時代の古い抵当権(休眠担保権)
金融機関からの借入を返済し終わる(完済)と、通常は抵当権を抹消します。ところが金銭の支払いが終了したあとでも抵当権を抹消していないケースがあります。中には明治大正といった時代のものが残っているケースもあります。こういったケースを「休眠担保権」と呼びます。
明治、大正から昭和初期にかけて設定されたもので、その後、完済しているかどうかも分からず抵当権者(債権者)との連絡も取れないため、長年にわたり放置されている抵当権などの担保権のことです。
先祖代々受け継いできた自宅を相続され名義変更登記などの際、対象物件の登記情報を確認すると、昔の抵当権をみかけることがあります。
例えばこんな感じです。
原因 大正3年04月05日設定
債権額 金100円
利息 年1割
抵当権者 ●●●●
また、昨今の銀行再編による吸収合併や廃業等により稀なケースで抵当権者の金融機関(銀行等)が既に存在しない場合があります。この場合休眠抵当権は抹消に時間がかかる場合があります。
このような抵当権は、被担保債権がすでに完済されて抵当権も消滅していると推測できます。支払っていなければその時点でこの抵当権を行使して競売等の手続きを行っていますかね。
しかし、実体上、抵当権が消滅しても、登記記録から当然に抹消されるわけではありません。登記から抹消するためには抵当権抹消登記を申請する必要があります。
では次に休眠抵当権を抹消する具体的方法を見ていきましょう。
休眠抵当権を抹消する方法6つ
【抹消する方法1】物件の「所有者」と「抵当権者」が共同で登記申請
【抹消する方法2】判決による抹消登記
【抹消する方法3】抵当権者の死亡により消滅した時(特約)
【抹消する方法4】裁判所の公示催告・除権決定
【抹消する方法5】債権証書&弁済証書による抹消
【抹消する方法6】所有者が「供託」して抵当権抹消登記を申請
【抹消する方法1】物件の「所有者」と「抵当権者」が共同で登記申請
原則、抵当権の抹消登記は、抵当権者を[登記義務者]、設定者(現在の物件の所有者)を[登記権利者]として、共同申請により行います。
抵当権者が自然人で、死亡している場合には、その相続人でも可能です。抵当権者が法人(会社)で解散している場合には、解散時の代表取締役が見つかれば、清算人としてお手伝いしていただくことになります。
【抹消する方法2】判決による抹消登記
登記義務者が抹消登記手続きに協力しない場合には、判決によって登記権利者のみで登記の単独申請をすることができます。(不動産登記法 63条1項)
【抹消する方法3】抵当権者の死亡により消滅した時(特約)
抵当権に抵当権者死亡・解散によって抵当権が消滅する特約等が登記されている場合に、所有者が、「抵当権者の死亡又は解散の事実を立証」できる添付書類を添付することで所有者が単独で抹消登記できます。(不動産登記法69)
■抵当権者不明の場合 単独申請
抵当権者と連絡が取れない休眠抵当権を消すには、以下の3つの方法があります。
【抹消する方法4】裁判所に公示催告してもらう
裁判所を通じて、抵当権者に名乗り出てもらうように公示催告してもらう。名乗り出てこない場合には、除権判決(抵当権消滅)をもらって、現在の所有者が単独で抹消登記申請をする。 (不動産登記法 70条1項2項)
【抹消する方法5】現在の所有者が当時の弁済を証明して抹消登記を申請
「債権証書」及び「債権並びに最後の2年分の定期金の受取証書」があるとき。要は当時の「借用書」、「元金+利息」を弁済していたことを証明する領収書(弁済証書等)などを添付して、現在の所有者から抹消登記を申請します。(不動産登記法 70条3項前段)
【抹消する方法6】所有者が「供託」して抹消登記を申請
債権の弁済期より20年を経過していて、元金と利息・遅延損害金を法務局に「供託」して、その供託証を使って、所有者が抵当権抹消登記を申請します。
弁済期から20年以上経っていないとこの方法は使えないのと、債権、利息及び損害の全額に相当する金銭を準備する必要があります。
もし万が一、抹消した後に、抵当権者[登記義務者]から「返済されていません、返済して」と言われたときに供託金から弁済をする方法です。 (不動産登記法 70条3項後段)
なお、登記義務者の所在不明(所在が知れない)とは、担保権登記名義人の現在の所在も死亡の有無も不明の場合をいいます。
例えば、登記名義人が死亡したことは判明しているが、その相続された関係人が不明な場合も含まれ、相続人が複数である場合に、一部の方だけが所在不明であるときも含まれます。
当時の抵当権者の相続人が判明していたり、法人が存続している場合には比較的手続きはかんたんにすすみます。そもそも休眠抵当権が問題として取り扱われない場合がほとんどです。抵当権者である個人や法人が行方知らずという場合に調査や手続きを含めて手間と時間(数カ月)がかります。
終わりに
このような「休眠担保権」が残っていると、売りたくても売れない物件になってしまったり、早めに売却したいのに、手続きに数カ月かかってしまったりする場合もあります。
売却にはタイミングも重要ですから、抵当権が原因で売却できなかったりすることがないよう、まずはご自身の抵当権などの権利関係を確認しておくことをおすすめいたします。