『一時使用目的の借地権』仮設店舗や工事資材置き場の契約実務
坂本俊介は、駅前に所有する更地について、地元の商業施設運営会社から「近隣の再開発工事が終わるまでの三年間、仮設店舗を建てて営業させてほしい」という申し出を受けた。工事期間中の代替店舗として利用したいという話で、俊介にとっては、遊ばせていた土地を一時的に活用できる良い機会に思えた。長年空き地のまま固定資産税だけを払い続けてきただけに、この話には少なからず心が動いた。
俊介は司法書士に相談し、契約の組み立て方について助言を求めた。「今回のように、期間を区切って一時的に土地を貸す場合は、借地借家法二十五条が定める『一時使用目的の借地権』として契約を組み立てることが考えられます。この一時使用目的に該当すれば、通常の借地権に適用される更新の保障や、借地人からの建物買取請求権といった強い保護規定が適用されません」。俊介にとっては、三年後に確実に土地を返してもらえるかどうかが最大の関心事だったため、この説明に強い関心を持った。もし通常の借地契約として扱われてしまえば、期間満了時に高額な建物買取請求を受けるリスクもあると聞き、俊介はなおさら慎重に契約を組み立てる必要性を感じた。
「ただし、契約書に『一時使用目的』と書くだけでは不十分です。裁判で争われた場合、本当に一時的な使用にすぎないと客観的に認められるだけの、合理的な理由が必要になります」。司法書士はそう説明した。俊介が「具体的にはどうすればいいのか」と尋ねると、司法書士は続けた。「まず、なぜ一時的な利用にとどまるのかという理由を、契約書上に具体的に明記することが重要です。今回であれば、近隣の再開発工事が完了するまでの代替店舗としての利用であるという事情そのものが、期間が限定される客観的な理由になります」。
司法書士はさらに、「工事の完了予定時期を示す資料や、再開発計画に関する公的な情報を契約書に添付しておくと、後になって一時使用性が争われた際にも、根拠を示しやすくなります。加えて、契約期間を工期にきっちり合わせて設定し、更新を行わない旨や、期間満了時には建物を収去して土地を返還する旨も、明確に記載しておくべきです」とアドバイスしてくれた。
俊介は運営会社の担当者とともに、再開発事業の完了予定時期を示す行政発表の資料を確認し、それに基づいて契約期間を三年間と定めた。契約書には、代替店舗としての一時的な利用であること、更新は一切行わないこと、期間満了時には建物を撤去して更地で返還することを、具体的な理由とともに明記した。
三年後、再開発工事が完了すると、運営会社は契約どおり仮設店舗を撤去し、俊介に更地の状態で土地を返還した。契約締結時に一時使用目的であることを客観的な資料とともに明確にしていたため、返還をめぐるトラブルは一切生じなかった。運営会社側からも、当初から明確な取り決めがあったことでスムーズに撤退計画を立てられたと、感謝の言葉をもらった。
この経験を通じて俊介は、一時使用目的の借地権を有効に活用するには、単に「一時的です」と契約書に書くだけでなく、なぜ一時的と言えるのかを裏付ける客観的な理由をしっかりと準備しておくことが不可欠だと学んだ。次に同じような相談があれば、今回の経験を踏まえて、契約書の作り込みに一層力を入れたいと、俊介は考えている。更地に戻った土地には、その後駐輪場が整備され、今も俊介に安定した収入をもたらし続けている。
学びのボックス
| 一時使用目的の借地権とは | 借地借家法25条により、一時使用のために設定されたことが明らかな借地権には、更新や建物買取請求権といった強い保護規定が適用されない。 |
| 「一時使用目的」と書くだけでは不十分 | 客観的・合理的な理由がなければ、契約書の文言だけでは一時使用性が認められないことがある。 |
| 客観的な理由の作り方 | 工事完了予定時期を示す資料や再開発計画の公的情報などを契約書に添付し、期間が限定される理由を具体的に示すことが有効。 |
| 契約条項の整備 | 契約期間を工事期間等に合わせ、更新を行わない旨・期間満了時の収去返還義務を明記しておく。 |
| 建物買取請求権の排除 | 一時使用目的が客観的に認められれば、期間満了時の建物買取請求権も排除でき、確実な土地の返還につながる。 |




