[学ぶ・知る]『更新料拒否』で地主と裁判になるか?
「更新料として150万円を払ってください。払えないなら契約の更新はお断りします」 契約満了の半年前に届いた地主・小野寺家からの書面を読んで、借地人の三宅俊一(五十六歳)は額に手を当てた。 三宅家は二十年前に借地契約を結び、その土地に自宅を建てて住んでいる。前回の更新時には更新料を払った記憶があるが、金額は今回の三分の一ほどだった。「150万円なんて、どこから出せというんだ」 三宅は弁護士の松木先生に相談することにした。
更新料に「法的強制力」はあるのか
松木先生はまず契約書を確認した。 「三宅さん、契約書に更新料に関する条項はありますか」 三宅は契約書を持参していた。二人で確認すると、「更新時には更新料を支払うものとする」という記載があった。金額の定めはなかった。 「更新料の条項があれば、支払い義務は生じます。ただし金額の定めがない場合、相場を超える請求には従う必要はありません」と松木先生は言った。 「では、150万円は高すぎますか」 「この地域の借地権価格から計算した更新料の相場は、借地権価格の3〜5%程度です。借地権評価額が仮に1,500万円なら、相場は45万〜75万円です。150万円は10%にあたり、相場の倍以上です。交渉の余地は十分にあります」
更新料を払わなければ契約が終わるのか
「小野寺さんは『払えないなら更新しない』と言っています。契約が切れたら、私は出て行かなければいけませんか」 「そうはなりません」と松木先生は答えた。「借地借家法では、借地人が更新を希望し建物が存在する限り、地主に正当事由がなければ更新を拒絶できません(借地借家法五条・六条)。更新料の不払いは正当事由にはなりません。更新料の交渉が決裂しても、法定更新によって契約は自動的に継続します」 「つまり、150万円を払わなくても、住み続けられるということですか」 「法的にはそうなります。ただし、更新料条項がある以上、金額について合意しないまま居座り続けると、後で紛争になりやすい。合理的な金額で合意する交渉を進めることが、現実的には最善です」
感情を排した交渉の進め方
松木先生は交渉の戦略を立てた。 「まず書面で小野寺さんに返答します。内容は三点です。一つ目は、更新料条項に従い更新料を支払う意思があること。二つ目は、150万円は地域の相場を大幅に超えており、相場に基づいた金額での合意を求めること。三つ目は、不動産鑑定士に借地権評価を依頼し、その評価額の五%を上限として提案する旨を伝えること。感情的な文章にせず、データに基づいた合理的な提案に徹することが重要です」 「小野寺さんが怒りませんか」 「相手が感情的になっても、こちらは冷静でいることが肝心です。交渉の主導権は、感情ではなく根拠を持っている側が持ちます」
合意した「更新合意書」が財産を守る
不動産鑑定士による評価の結果、借地権評価額は1,400万円と算出された。5%は70万円。松木先生名義の書面を受け取った小野寺家は二週間後、「80万円であれば受け入れる」と回答してきた。 三宅は松木先生と相談し、80万円で合意することにした。当初要求の半分以下だ。 「今回の交渉で大切だったのは、感情的にならなかったことと、根拠のある数字を出したことです」と松木先生は言った。「相手も商売として更新料を求めているのであって、あなた個人を攻撃しているわけではない。そう割り切ると交渉が楽になります」 合意書には更新後の地代・存続期間・次回更新時の更新料の算定方法(借地権評価額の五%を上限とする)まで明記された。三宅は書類に署名しながら言った。「これで次の更新も揉めずに済む」 「そのためにこそ、今回しっかり書面に残したんです」と松木先生は答えた。 更新料に法的強制力がないことを知っているだけで、交渉のテーブルの形は大きく変わる。感情ではなく根拠で話し合い、書面で未来を守る——それが、長く借地に住み続けるための知恵だ。
[学びのボックス]更新料交渉と合意書のポイント
| 更新料の法的根拠 | 更新料を支払う義務は、契約書に更新料条項がある場合に生じる。条項がなければ法的な支払い義務はない(判例)。金額の定めがない場合は相場に基づいた交渉が有効。 |
| 更新料不払いで追い出されるか | 更新料の不払いは正当事由にならず、建物が存在し借地人が更新を希望する限り、法定更新によって契約は継続する(借地借家法5条・6条)。更新料交渉決裂だけでは退去義務は生じない。 |
| 相場の目安 | 更新料の一般的な相場は借地権価格の3〜5%程度。不動産鑑定士に借地権評価を依頼し、その評価額に基づいた金額を提案することで交渉に根拠が生まれる。 |
| 交渉の進め方 | 感情的にならず、書面で合理的な提案を行う。「支払い意思はある・金額は相場に基づいて決めたい」という姿勢が交渉を円滑にする。弁護士・司法書士に代理交渉を依頼するのも有効。 |
| 更新合意書に入れるべき内容 | 更新後の地代・存続期間・更新料の金額・次回更新時の算定方法——これらを合意書に明記することで将来の紛争を防ぐ。弁護士・司法書士の関与のもとで作成することが望ましい。 |




