ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
「二十年間、ありがとうございました。来月、建物を取り壊して更地でお返しします」
コンビニチェーンの担当者から電話を受けた岸田博之(六十七歳)は、受話器を置いてから長い息をついた。
二十年前、博之は国道沿いの遊休地(約三百平方メートル)をコンビニに貸した。当時の担当弁護士が強く勧めたのが「事業用定期借地権」だった。公証役場で公正証書を交わし、契約期間は二十年、満了後は建物を解体して更地で返すことが明記されていた。
当時の博之には、その言葉の意味が十分にはわからなかった。しかし二十年後、その約束が確かに果たされようとしている。
「更新しない」が大前提の契約
博之は息子の慎一(四十歳)と一緒に契約書を読み直した。慎一は最近まで不動産会社に勤めており、借地権の知識があった。
「事業用定期借地権は、普通の借地権とは根本的に違います」と慎一は言った。「普通の借地権は正当事由がなければ地主から更新を断れないけれど、事業用定期借地権は期間が来たら必ず終わる。法定更新がない。コンビニ側がどれだけ続けたくても、二十年で終わりなんです」
「だから公正証書が必要だったんだな」と博之は言った。
「そうです。借地借家法二三条三項で、事業用定期借地権は必ず公正証書で設定しなければならないと決まっています。公証役場で双方が署名した書類だから、後から『そんな約束はしていない』とは言えない」
満了の一年前から動き始める
契約満了の一年前、コンビニ側から「返還準備開始のお知らせ」が届いた。チェーン店の運営部門とは別に、土地返還専門の担当者が窓口になった。
「建物の解体は私たちが費用を負担して行います。また、念のため土壌汚染調査を実施し、問題がないことを確認してから更地にしてお返しします」
博之は「解体費用って、こちらが負担するんじゃないですか」と聞いた。慎一が首を振った。「事業用定期借地では、借地人が建物を解体して更地で返すのが原則。建物買取請求権は契約で排除されているから、コンビニ側は『建物を買い取れ』と言えない。全部向こうが片付けて返してくれる」
更地が戻ってきた日
満了の翌月、解体工事が完了した。博之と慎一が現地を確認しに行くと、かつてコンビニが建っていた場所は整地された更地になっていた。土壌汚染検査の結果も「問題なし」だった。
「二十年分の地代をもらいながら、最後は更地で戻ってくる。こんなに有利な貸し方があったとは」と博之は呟いた。
「普通の借地で貸していたら、今ごろ返してもらえたかどうか……」と慎一も言った。「正当事由がないと解約できないから、借地人が出て行かない限り土地が戻らない。定期借地の威力はここにある」
更地の「次の手」を考える
博之は今、更地の活用を慎一と話し合っている。新たに別の事業者と事業用定期借地を結ぶか、相続に備えて売却するか——選択肢は広い。
「二十年前にきちんとした契約を結んでおいてよかった。あのとき弁護士の言う通りにしていなかったら、今ごろどうなっていたかわからない」
事業用定期借地権は、地主が「時間を区切って貸す」ための最も強力な道具だ。公正証書という鎧を着た契約が、二十年後の確実な返還を保証する——それがこの制度の本質だ。
学びのボックス:事業用定期借地権の基本と満了手続き
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事業用定期借地権とは |
専ら事業用に供する建物(住宅を除く)の所有を目的とし、存続期間を10年以上50年未満とする定期借地権(借地借家法23条)。期間満了後は更新なく終了し、更地で返還される。 |
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公正証書が必須 |
事業用定期借地権の設定契約は、必ず公正証書で作成しなければならない(借地借家法23条3項)。口頭や普通の書面では効力が生じないため、公証役場での手続きが不可欠。 |
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満了時の手続き |
期間満了の1〜2年前から、借地人(賃借人)に対して返還準備を通知する。借地人は建物解体・土壌汚染調査・整地を行い、更地の状態で土地を返還する義務を負う。 |
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建物買取請求権の排除 |
普通借地権では借地人に建物買取請求権があるが、事業用定期借地権では契約でこれを排除することができる。これにより、地主は解体費用を負担せず更地を取り戻せる。 |
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再契約・活用の自由度 |
更地返還後は、地主が土地を自由に活用できる。別の事業者と新たな事業用定期借地契約を結ぶことも、売却・自己利用も可能。定期借地は「期限付きの貸し出し」という点が最大の強み。 |




