ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
高橋隆三(たかはし りゅうぞう)が父の死を知ったのは、出張先の大阪でのことだった。享年八十二歳。地元では名の知れた地主家系の当主として、父はひと時代を生きた。
東京の実家に戻った隆三を待っていたのは、広大な土地台帳と、税理士からの一通のメールだった。件名には「相続税の概算額について」とあった。
開いた画面に並んだ数字を見て、隆三は息をのんだ。相続税の概算は一億二千万円を超えていた。
父が遺したのは、都市近郊に点在する複数の土地だった。ほとんどは戦前から続く借地で、今も借地人が家を建てて住んでいる。いわゆる「底地」だ。地代収入はある。しかし長年、低い地代で据え置かれてきたため、収益は微々たるもので、現預金はほとんど残っていなかった。
「現金で払うのは無理だ。土地で納めることはできないか」
隆三は税理士の古川さんに相談した。古川さんはうなずいた。「相続税には『物納』という制度があります。金銭で納めることが難しい場合に、不動産などの財産で納税できる制度です。ただし、底地の物納は非常にハードルが高い」
物納できる財産には優先順位がある。第一順位が不動産・船舶・国債・地方債など、第二順位が社債・株式など、第三順位が動産だ。底地は不動産として第一順位に該当するように見えるが、問題はそこではなかった。
「物納するには、その財産が『管理・処分に支障がないこと』という要件を満たさなければなりません」と古川さんは言った。「底地は、その要件が特に厳しく問われます」
古川さんが説明した主な却下リスクは三つだった。
一つ目は、境界の未確定だ。隣地との境界が確定していない土地は、物納申請を却下される。父の底地の一部は、隣の土地との境界標がなく、測量図も古いものしかなかった。
二つ目は、地代の不払いや地代争議の存在だ。借地人が地代を滞納している、あるいは地代の金額をめぐって争いがある底地は、「管理に支障がある」とみなされて却下対象になる。父の底地には、長年にわたって地代をほとんど払っていない借地人が二名いた。
三つ目は、抵当権などの担保が設定されていることだ。担保が残ったままの土地は物納できない。
隆三は頭を抱えた。「じゃあ、うちの底地はほとんど物納できないということか」
古川さんは静かに答えた。「境界を確定して、地代の滞納を解消すれば、物納申請できる可能性は残ります。ただし、それには時間がかかります。物納は、相続税の申告期限(相続開始から十か月以内)までに申請しなければなりません。延納という形で分割払いにして、その間に底地を売却して現金を作るという選択肢も検討すべきです」
隆三は期限までの日数を数えた。父が亡くなってから、すでに二か月が過ぎていた。
境界確定の測量を急ぎ発注し、滞納者への交渉を弁護士に依頼し、一方で底地の売却を専門業者に打診する――隆三の動きはにわかに忙しくなった。
相続は、悲しむ間もなく現実を突きつけてくる。父が守り続けた土地を、どう次の形へ変えるか。それが今、隆三に課された仕事だった。
【学びのボックス】底地の物納申請と却下リスク
|
物納とは |
金銭納付が困難な場合に、不動産等の財産で相続税を納める制度。申告期限(相続開始から10か月以内)までに申請が必要。 |
|
底地の物納順位 |
不動産として第一順位。ただし「管理・処分に支障がないこと」という要件が厳格に審査される。 |
|
却下リスク① |
境界未確定:隣地との境界が確定していない土地は却下対象。事前の測量・確定が必須。 |
|
却下リスク② |
地代の滞納・争議:借地人が地代を払っていない、または地代をめぐる紛争がある底地は管理に支障ありとみなされる。 |
|
却下リスク③ |
担保権の存在:抵当権等が設定されたままの不動産は物納不可。 |
|
現実的な対応策 |
物納要件を満たすまでの間は「延納(分割払い)」を活用しつつ、底地の売却や借地人への底地売却(底地買取)も並行して検討する。 |




