[学ぶ・知る]『借地権の名義変更』で地主に払うハンコ代の相場
「地主さんに承諾料を払わないといけないとは知っていましたが、相場がまったくわからなくて……」 個人名義の借地権を長男・一郎(三十一歳)に生前贈与したいと考えていた田村修二(六十二歳)が、司法書士の岡田先生に相談したのは春先のことだった。 田村家の借地権は、修二が二十五年前に父から相続したもの。その借地上の自宅に現在は長男・一郎家族が同居している。修二は自分が元気なうちに正式に名義を一郎に移しておきたいと考えていた。 「地主の黒田さんに承諾をもらわないといけませんよね。そのときに渡す『ハンコ代』の相場って、いくらくらいなんですか」
「名義書換料」とは何か
岡田先生はまず整理した。 「借地権の名義変更——正式には『借地権の譲渡』——には、地主の承諾が必要です。地主がその承諾の対価として求めるのが、いわゆる名義書換料(承諾料)です。法的な義務ではなく慣行ですが、地主が承諾の条件として求めることが多く、実務上はほぼ避けられません」 「では、相場はどれくらいですか」 「一般的な目安は、借地権価格の10%程度です。借地権価格は路線価×面積×借地権割合で計算します。仮に借地権の評価額が二千万円であれば、名義書換料の相場は二百万円前後ということになります」 「ただし」と岡田先生は続けた。「法的な根拠がない慣行ですから、地主によっては5%で済む場合もあれば、15%を要求してくる場合もある。また、親族間の譲渡(親から子など)の場合は、赤の他人への売却より低くなることが多いです」
親族間の場合は減額交渉が有効
「一郎は私の息子ですから、赤の他人ではないですよね。それは交渉の材料になりますか」 「なります。地主にとって最大の懸念は、知らない人間が新たな借地人になることです。親から子への譲渡であれば、信用力・支払い能力・属性が大きく変わるわけではありません。その点を丁寧に説明することで、書換料の減額を求めやすくなります」 「どうやって説明すればいいですか」 「まず書面で申し入れることをお勧めします。口頭よりも、経緯と一郎さんの属性(職業・収入)を記した丁寧な手紙を渡す方が、地主さんも落ち着いて検討できます。こちらが誠実に対応していることを示すことが、交渉をスムーズにする一番の近道です」
地主への手紙の書き方
岡田先生は手紙の構成を教えてくれた。 「書くべき内容は大きく三点です。一つ目は、これまでの借地関係への感謝と、今後も良好な関係を継続したいという意思表明。二つ目は、今回の名義変更の理由(生前贈与・事業承継など)と、新たな名義人(一郎さん)の属性の紹介。三つ目は、地主のご都合のよいときに直接お話しする機会をいただきたいというお願いです」 「最初から金額の話は書かない方がいいですか」 「最初の書面には書かない方が無難です。まず地主に状況を理解してもらい、会って話す場を作る。金額の交渉はその場でするのが自然な流れです」 修二は岡田先生のアドバイスをもとに手紙を作成し、黒田地主宅を訪問して直接手渡した。
交渉の結果と合意
黒田氏は手紙を読んだうえで、二週間後に修二と面談した。 「一郎くんは子供の頃から知っている。田村さん一家がずっとここにいてくれるなら、私も安心です。ただ、慣行として書換料はいただきたい」 提示された金額は借地権価格の8%—160万円。修二は「息子への譲渡ということでもう少しご配慮いただけないか」と丁重に交渉した。最終的に120万円(6%)で合意が成立した。 「最初から岡田先生に相談して、手紙を丁寧に書いたのがよかったと思います」と修二は後日言った。「いきなり数字の交渉をしていたら、もっとこじれていたかもしれない」 名義書換料に法律上の上限はない。しかし、誠実な説明と書面による丁寧な申し入れは、地主の心証を和らげ、合理的な合意を引き出す最大の武器になる。借地権の名義変更は、地主との信頼関係を育てる機会でもある。
[学びのボックス]名義書換料の相場と交渉のポイント
| 名義書換料とは | 借地権の譲渡(名義変更)に際して地主が求める承諾の対価。法的義務ではないが実務上ほぼ必須。借地権価格に対するパーセンテージで計算されることが多い。 |
| 相場の目安 | 借地権価格の10%程度が一般的な相場。ただし地主・地域・譲渡先(親族か第三者か)によって5〜15%の幅がある。法的な根拠はなく交渉で決まる。 |
| 親族間は減額交渉が有効 | 親から子など親族間の譲渡は、地主にとってのリスク(知らない人物が借地人になる)が低い。この点を説明材料にして書換料の減額交渉ができる。 |
| 交渉の進め方 | ①経緯と新名義人の属性を記した丁寧な書面を地主に渡す、②直接会って話す場を設ける、③金額交渉は面談の場で行う——この順序が最もスムーズ。 |
| 地主が承諾しない場合 | 地主が不当に承諾を拒む場合は、裁判所に「地主の承諾に代わる許可」(借地借家法19条)を申立てることができる。ただし訴訟は関係悪化のリスクがあり最終手段として位置づける。 |




