借地権と抵当権はどちらが優先される?
対抗要件や抵当権実行後の対応について解説
借地権とは、文字どおり「土地を借りる権利」です。一方、抵当権は「債務の不履行(=借金の返済ができない)時に担保として差し押さえる」権利です。
土地を借りて借地権を設定しようとしたとき、その土地に対してすでに抵当権が設定されているものがあります。
この2つの権利は、先に設定されたほうが優先されます。例えば、先に抵当権が設定されており、それが実行されると、借地権として借りた土地を明け渡さなければいけないのです。
この場合対抗要件としては、権利設定の順番以外に、「抵当権より借地権を優先する」という内容で抵当権者の同意をとる「同意の登記」があります。
目次
「借地権」と「抵当権」どちらが優先されるかは対抗要件によって異なる
抵当権が優先される場合
借地権が優先される場合
抵当権が実行されたら、借地権者は土地を明け渡さなければならない
同意の登記があれば抵当権よりも借地権が優先される
まとめ
「借地権」と「抵当権」どちらが優先されるかは対抗要件によって異なる
土地の賃借権である「借地権」と土地を担保に取っている「抵当権」は、それぞれの権利を持っている方同士で争う可能性があります。
なぜなら、それぞれの利害関係が対立するからです。
抵当権を実行するとき、抵当権者はその土地を更地の状態で競売にかける前提でいます。
しかし、借地権者が建物を建てていると売却できません。
そうなれば、土地の売却代金を借金の返済に充てることができず、抵当権者は困ってしまいます。
一方で、借地権者はその借地上の建物を利用している状況です。
地主が債務不履行になったからといって、建物を取り壊して借地を明け渡すことになれば、住む家がなくなってしまいます。
その場合、借地権者側の負担が大きくなります。
つまり、抵当権が優先されると借地権者が困り、借地権が優先されると抵当権者が困ります。
そのため、このような関係を「対抗関係にある」といいます。
そして、どちらの権利が優先されるかは、対抗要件によって異なります。対抗要件とは、第三者に自分の権利を主張するために必要なものです。
不動産における対抗要件は、不動産登記になります。
抵当権の登記と建物の登記、どちらの順位が上にあるかで優劣も決められます。基本的には早いものが順位が上です。
抵当権が優先される場合
たとえば、土地に対して、先に抵当権が設定されていて、その後、土地の賃貸借契約を結んだとします。そして、借地権者が借地上に建物を建て、その建物を登記した場合で考えます。
このとき、優先されるのは抵当権です。
つまり、抵当権が実行されると抵当権者の主張は借地権者の主張よりも優先されます。
そのため、借地権者は借地を更地にして明け渡す必要があります。
借地権が優先される場合
先に、地主と土地賃貸借契約を結んで、建物を建て、その建物を登記しておきます。
その後に、土地の貸主である地主が底地を担保に入れて、抵当権設定がされた場合です。抵当権が優先される場合と逆です。このとき、抵当権者は更地を担保に取ったとはみなされません。既に借地権を設定しており登記も済ましているからです。あくまで、「借地権付きとなった土地」を対象に担保に取ったということになります。
そのため、抵当権よりも借地権が優先です。従いまして、借地権者はたとえ土地を競売にかけられたとしても、競落で新しく土地所有者となった底地人に対して借地権を主張することが出来ます。
借地権者は土地競落人から要求されたとしても、土地を明け渡す必要はなく、今まで通り利用し続けれます。
底地抵当権が実行されたら、借地権者は土地を明け渡さなければならない
借地権よりも土地の抵当権が先に設定されていて、優先度が抵当権の方が上の場合に、底地の抵当権が実行されると、前述のとおり借地権者は土地を更地にして明け渡さなければいけません。
もし、その土地の借地権を取得しようとして調査した際に、土地に抵当権がすでに設定されている場合は避けるようにしましょう。
借地権者側に契約違反となるような落ち度がなくても、地主の債務不履行によって立ち退かなければならなくなる可能性がでてくるからです。
また、地主としても抵当権を設定したばかりに、誰も土地を借りる方がいなくなるのは正直困ります。
そこで、このような場合の制度として「抵当権者の同意により賃借権に対抗力を与える制度」があります。この制度により、同意の登記を行うことで、借地権者が抵当権者に対して権利を主張できるようになりました。
つまり抵当権が実行されて土地が競売にかけられたあとも、明け渡す必要がないということです。
「同意の登記」(抵当権者の同意により賃借権に対抗力を与える制度)
抵当権設定登記以後に設定された賃借権について、抵当権者の同意のもとに、賃借権が抵当権に対抗できるものとする制度のこと。改正後の民法387条に規定されており、2004(平成16)年4月1日よりはじまりました。
同意の登記とは、抵当権者に同意をもらって「賃借権が抵当権に対抗できる」という登記をすることです。つまり抵当権よりも借地権が優先されるんですね。
制度の趣旨
不動産に抵当権設定登記がなされた後に設定された賃貸借は本来ならばすべて抵当権が優先され、賃借権は劣後するというのが原則です。
そのため、融資返済不能などの事情によって抵当権が実行された(すなわち競売が実行された)場合には、この不動産の賃借権者は賃借権を抵当権者に主張することができないため、抵当不動産の競落後には賃借権者は直ちにこれを明け渡さなければならなくなります。
こういった競売に伴う賃借人の不利益を緩和するための制度として、一定期間ですが建物賃貸借については、半年(6ヵ月間)の建物明渡の猶予が置かれていますが、猶予期間経過後にはやはり立ち退かなければなりません。これではやはり賃借人は困りますよね。そこで、一定の条件を満たした賃借人については、競売にかかったとしても立退きをせずそのままでよいとする制度がこちらです。
制度の条件
同意の登記を行うには下記の条件をすべて満たしている必要があります。
次の条件をすべて満たした賃借権については、賃借人は常に抵当権者に対抗できる(つまり、競売がなされても従前のとおり賃貸借を継続できる)とするものである。
1)その賃借権が正式に登記されていること
2)借地権よりも優先される抵当権を設定している抵当権者全員の同意があること
3)上記2)の同意が登記されたこと
ただしここで、注意点があります。通常、借地権の第三者への主張は、借地上の建物を登記しているだけでできます。建物所有権保存登記で賃借権の登記の代わりとすることができるので、借地権の対抗要件となりました。
しかし、「同意の登記」では建物所有権保存登記を賃借権の登記の代わりにすることはできません。
賃借権そのものが登記されている必要があります。
その上で、「同意の登記」を行うことで抵当権よりも借地権が優先されるようになります。
同意を得ているだけでなく、「同意の登記」まで行われていることが、借地権が抵当権よりも優先される条件ですので注意してください。
まとめ
抵当権と借地権は設定されたタイミングが早いほうが優先度が高い。
抵当権を実行された(競売)場合には借地権者は土地を明け渡さなければならない
同意の登記によって、優先順位が高い抵当権に対しても「賃借権が抵当権に対抗できる」つまり抵当権よりも借地権が優先される制度がある。
同意の登記は、1賃借権の登記、2抵当権者全員の同意、3同意の登記 この3つを満たすことで対抗できるようになります。