地主の承諾が不要な場合4つ
借地権の譲渡や転貸をする場合、地主の承諾を必要とするのが原則ですが、地主の承諾がいらないケースもあります。
また、事前に地主の承諾が必要な場合であったとしても地主の承諾なしに譲渡しても、信頼関係の破壊にまで至らないという理由で、解除が認められない(地主が契約解除を主張したとしても認められない=地主の承諾が不要)ケースがあります。こちらを4つ紹介します。
1 借地上の建物賃貸
2 相続
3 共有者間の譲渡
4 離婚による財産分与
1 借地上の建物の賃貸
借地上の建物を第三者に貸す場合です。借地の上にある建物を誰かに賃して投資等をおこなうケースです。
この場合、建物の所有権は借地権者のままですが、建物が賃貸されれば、建物の賃借人がその土地も使うことになるので、借地権者以外の第三者が土地を使うことになるように思えます。 しかし、この場合は、借地権を譲渡や転貸したことにはなりません。そのため、地主の承諾を取る必要はありません。当然、承諾料を払う必要もありません。
ここではっきりと区別しておきたいのが、借地権の「転貸」についてです。転貸も第三者に賃貸するものですが、ここで言っているのは借地権そのもの、借地上の建物の所有権を移転する場合をいいます
例を挙げると、地主Aから土地を借りた借地権者Bが建物を建てることなく、第三者Cに土地を貸し(転貸し)第三者のCが建物をその土地に建てるケースです。
この場合、最初に土地を借りたBに発生する権利が「転貸借地権」といい。転借人であるCに発生する権利を「転借権」といいます。借地権者Bが借りた土地を第三者Cに貸すことは「転貸」にあたるため、地主であるAの承諾が必要です。
もし第三者Cが地主Aの許可なく他の人にその土地を譲渡したりすると、地主AはCに明け渡しを求めることができ、借地権者Bさんに契約解除を求めることが可能です。
一方で、地主の承諾不要で行えるのは、建物を貸す(建物の賃貸)という行為です。この場合、借地権自体が移動することはありませんので、地主には影響が及ばなずそのため承諾が不要ということになります。
建物を借りた第三者はそこに住居として使用したり事業を営んだりすることによって、土地の使用者となりますが、あくまで借地権そのものの譲渡や転貸がなされているわけではなく、建物を使用していることに付随した土地の使用になります。そのため、地主の承諾なしに建物を貸すことができます。
そのため、借地権者は借地の上の建物をアパートなど共同住宅にして、それを誰かに賃貸することが可能になるります。そして、入居者が変わる際も同様に地主の承諾なく、借地権者の自由にすることができます。
ここで例外について記載しておきます。通常の借地の契約では目的について「建物所有目的」としか書いていないので、建物を第三者に貸すことができます。しかしごく稀にですが契約書上に借地上に建てられる建物の種類や使用目的・用途が記載されている場合があります。その内容によっては地主の承諾がないと第三者に貸すことができない場合もあります。
例えば「共同住宅(アパート)としての使用を禁じる」という場合です。この場合は地主の承諾が必要になってきます。他にも「土地の賃借人の住居として使用すること」という記載があり本人の住宅としてのみ使用することうたっているケースもあります。
なお、このような条件がある契約書の場合でも、裁判所へ借地契約の条件変更について許可を求めることができます。
(2) 相続
つぎは相続の場合です。遺言で特定の相続人に相続させる場合や、遺言がないので遺産分割して、共同相続人の一人が借地権者になる場合には地主の承諾は不要です。
遺言がなくて、相続人が複数の場合、一旦、共同相続人全員の共有になり、その共有持分が遺産分割協議で、移転することになります。つまり、借地を遺産分割で1人の相続人のものにする場合、共有者間で借地権の持分の譲渡が行われることになります。一見すると地主の承諾が必要に思えますが、しかし、地主の承諾は不要です。あくまでもこうした行為は相続の一環としてなされているため、共有するはずだった借地権を一人の相続人にまとめる行為は、地主の承諾なしで良いとなっています。
遺産分割で共同相続人の間で、借地を分け合うような形(一個の借地権を共同相続人間で複数に分ける場合)になっても、地主の承諾は不要です。やはりこれも相続行為の一つとして生まれるわけですから、基本的には地主の承諾は不要となりますね。
しかし、借地を分け合う形の遺産分割については、地主との契約が複数に分かれ借地の範囲も変わります。地主に無断でやると地主とトラブルになる可能性があります。また、分割の方法によっては地主に不利益になると判断され解除される可能性があります。そのため、このようなケースにおいて地主の承諾を求めるとする事例も存在しています。
(3) 共有者間の譲渡
3つめは、借地権が共有になっている場合に、共有者間で持分を譲渡する場合です。
遺産分割の結果、借地上の建物を、共同相続人の間で法定相続分で共有にすることがあります(「共有にする」という遺産分割です)。借地上の建物を共有にすれば、借地権も同じように共有になります。
また、相続以外にも借地権が共有になることがあります。例えば、最初は夫の単独名義だった借地を、建物を再築する時に融資の都合などで夫、妻の共有名義にする場合です。この場合は共有にする時に地主の承諾が必要です。
このような経緯で共有になった借地権について、例えばAとBという二人が共有していたとします。
このとき、AがBに自分の共有持分をすべて売却して、Bが持分を買い取って単独の借地権者になる場合、共有者の間だけで譲渡がなされていますが、遺産分割の場合と違い一応地主の承諾は必要とされています。
しかし、このような共有者間の持分譲渡は、持分の譲渡の前後で利用状況が変わらず、地主も不利益を受けないのが通常です。このため、信頼関係の破壊がないということで解除が認められないことが多くこうしたことから、実質的には地主の承諾不要で手続きができることになります。
ただし、これは、あくまでも、共有者の間で持分を譲渡する場合です。第三者に持分を譲渡する場合は地主の承諾が必要になり、承諾なしに譲渡すると地主の請求によって、譲渡行為が解除される危険があります
共有者間の譲渡や、同居している親族に譲渡する場合など、信頼関係を破壊するとは言えないので地主からの解除が認められないと思われるケースでも、地主が解除するなどと言ってトラブルになる場合があります。このような場合でも、譲渡前であれば地主の承諾に代わる許可の裁判の申立ができます。裁判所の許可では、承諾料の支払いが必要になりますが、金額も抑えられトラブルの事前防止になります。
(なお、借地家の譲渡については地主の介入権の行使がありますが、共有者間や親族間の譲渡について、裁判所の許可を求める場合には地主の介入権が制限されます。)
(4) 離婚の財産分与
4つめは、離婚の際の財産分与のケースです。
夫婦で借地上の建物に住んでいて、借地権者が夫だった場合に、離婚の際の協議によって夫が妻に財産分与として借地権と、その上にある建物を渡すことになりました。この場合は、原則として地主の承諾が必要です。
しかし、地主の承諾がなくても、解除が認められない場合があります。夫の単独名義の財産(建物)でも、妻は、実質的には共有者と同じ地位にあったと考えられることが理由とされています。
特に、妻が率先して建物の管理をしていた、結婚してから借地権を得たというケースなどです。
ただし、これらは同居や実質的に夫婦の共有財産だったことなど、その事案に特有の事実関係が理由になっています。財産分与なら解除されないというわけではありません。
借地上の建物が収益物件の場合や結婚前から配偶者が所有していた財産を財産分与で譲渡する場合などは実質的な共有財産とは判断されない場合がありますので注意が必要です。 離婚についての財産分与については地主の承諾なしでできる場合があるというくらいの認識をして頂き、解除が認められないと思われる場合でも、トラブル防止のために事前に地主の承諾や、地主の承諾に代わる裁判所の許可を取ることを念頭におきましょう。
地主の承諾が不要な4つのケースについて解説させていただきました。
いくつかのケースで借地権者は、地主の承諾を得なくても問題がないことになります。しかしながら、土地の貸し借りは地主と借手である借地人との信頼関係が大事です。双方の間にトラブルが生じるとのちのち問題が出てくるリスクが高くなります。
ですから、地主の承諾が不要という場合でも事前に地主に連絡をしておく方が安心です。コミュニケーションをとることで信頼関係も深まります。