ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
「え、うちの実家って……自分の土地じゃなかったの?」
母の死去に伴い実家の相続手続きを始めた坂田麻衣(四十四歳)が、法務局で取り寄せた登記簿を見て目を丸くした。建物の所有者欄には亡き母の名前があるが、土地の所有者は別の人物——見知らぬ「大塚義雄」という名前だった。
実家は借地の上に建っていた。麻衣は三十年以上そこで育ったのに、一度も聞かされたことがなかった。
相続できる「権利」がある
慌てた麻衣が相談したのは、知人の紹介で知った不動産コンサルタントの中川先生だった。
「落ち着いてください。借地は土地こそ他人の所有ですが、お母様が持っていた『借地権』は立派な財産です。相続の対象になります」
借地権とは、他人の土地を借りて建物を所有・使用できる権利だ。長年の地代支払いの積み重ねで法的に保護された、れっきとした財産価値を持つ。
「では、この権利はいくらくらいの価値があるんですか」と麻衣は尋ねた
路線価図に隠された「D」の意味
「まず相続税の計算で使う評価額を調べましょう」と中川先生は国税庁のウェブサイトを開いた。財産評価基準書——いわゆる路線価図だ。
実家の前の道路には「230D」という数字が記されていた。「230」は一平方メートルあたり二十三万円の路線価を意味する。そして「D」が重要だった。
「このアルファベットが『借地権割合』を示しています。AからGまであって、Dは六〇%です。つまり、この土地の更地価格のうち六割が借地権の価値、残り四割が底地(地主側の価値)ということです」
麻衣はメモを取った。実家の土地面積は六十平方メートル。路線価で計算すると更地評価は一千三百八十万円。その六〇%——八百二十八万円が、相続税評価上の借地権の価値となる。
「評価額」と「実際に売れる値段」は別物
「では、売ったら八百万円以上になりますか?」と麻衣が目を輝かせると、中川先生は少し表情を引き締めた。
「路線価の評価額はあくまで相続税を計算するための数字です。実際に借地権を売りに出したときの価格——実勢価格——は、別の話になります」
借地権は自由に動かせる土地と違い、売却には地主の承諾が必要で承諾料もかかる。買い手も限られるため、評価額の六~七割程度しか売れないケースも珍しくない。逆に、駅近の人気エリアなら評価額を上回ることもある。
「底地側も同様です。地主の大塚さんが底地を売りに出しても、借地権者がいる土地は買い手がつきにくく、更地評価の三~四割程度が相場です。路線価どおりに売れるとは思わないほうがいい」
「権利」を知ることが第一歩
麻衣は中川先生と相談を重ね、当面は実家を売却せず賃貸に転用する方向で検討を進めることにした。借地権のまま建物を賃貸に出すには地主の承諾が必要だが、大塚氏は快く応じてくれた。
「借地権は複雑に見えますが、正しく理解すれば使いこなせる権利です。数字の意味を知るだけで、選択肢がぐっと広がります」と中川先生は言った。
麻衣は路線価図のコピーを財布に入れた。「D=六〇%」——その小さなアルファベット一文字が、相続の入り口に立った自分に教えてくれた最初の知識だった。
【学びのボックス:借地権割合の基本】
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借地権割合とは |
更地(土地全体)の価値に対して、借地権がどれだけの割合を占めるかを示す指標。国税庁の財産評価基準書(路線価図)にA〜Gの記号で示され、90〜30%の幅がある。 |
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路線価図での確認方法 |
国税庁ウェブサイトの「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」から確認できる。路線価の数字の横にあるアルファベット(A=90%、B=80%…D=60%など)が借地権割合を示す。 |
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底地と借地権の価値の分け方 |
更地価格を100とすると、借地権割合が60%なら「借地権=60、底地=40」が相続税評価の基本。ただし底地は権利関係の制約から実勢価格はさらに低くなることが多い。 |
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相続税評価と実勢価格の乖離 |
路線価ベースの借地権評価額は相続税計算に使うもの。実際に売買する際の価格(実勢価格)は需給・地域・契約条件によって大きく異なり、評価額より低いことも高いこともある。 |
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売却を検討するなら鑑定を |
借地権や底地の売却価格を正確に把握するには、不動産鑑定士による鑑定評価が有効。路線価の数字だけで判断すると実態と大きくずれることがある。 |




