ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
三浦達夫(67歳)は、父から受け継いだ底地を十五年間保有し続けてきた。借地人の小林さん一家とのトラブルもなく、毎月地代が振り込まれてくる。それ自体は問題ない。ただ、老後の資金のことを考えると、できればまとまったお金に換えたいという気持ちが年々強くなっていた。
問題は、小林さんに「土地を売りたい」と言い出せないことだった。小林さん一家は三十年以上そこに住んでいる。子どもたちも独立し、今は老夫婦二人暮らしだ。急に「売ります」と言ったら、どう思われるか。傷つけてしまわないか。達夫はそう考えるたびに、言い出せないまま時間が過ぎていった。
思い切って不動産の専門家に相談すると、底地の売却には複数の方法があることを教えてもらった。
一つ目は、小林さんに底地を買い取ってもらう方法だ。小林さんが底地を購入すれば、借地権と合わせて完全な所有権の土地になる。小林さんにとっても、地主が変わる心配がなくなるというメリットがある。ただし、購入の意思と資金がなければ成立しない。
二つ目は、底地のまま第三者(主に不動産投資家)に売却する方法だ。底地専門の買取業者や投資家は全国に存在し、借地人に知らせることなく売却できる。ただし、借地権付きの土地は活用が制限されるため更地価格より低くなる。一般的に更地価格の十五パーセントから三十パーセント程度が底地単独の売却価格の目安だ。
三つ目は、小林さんと協力して底地と借地権を同時に第三者へ売却する方法だ。一体の土地として売ることで、完全所有権の価格に近い金額が得られる可能性がある。売却代金は底地価格と借地権価格の割合に応じて按分する。双方に利益があるため、小林さんも応じやすい選択肢だ。
「小林さんへの伝え方はどうすればいいですか」と達夫は聞いた。「急に「売ります」と言うのではなく、まず現状の悩みを正直に話すことをお勧めします。老後の資金の問題、管理の負担——率直に伝えることで、相手も自分のこととして考えてくれます。長い信頼関係があるからこそ、誠実な対話ができるはずです」
達夫は小林さんに手紙を書いた。売却を急かすのではなく、今後のことを一緒に考えたいという気持ちを伝えた。折り返し、小林さんから「話を聞かせてください」という返事が届いた。
何度か話し合いを重ねた末、小林さんが底地を買い取ることで合意が成立した。長年の借地関係が、双方にとって納得のいく形で幕を閉じた。達夫は「言い出してよかった」と心から思った。
底地の売却を「言い出せない」と感じている地主は少なくない。しかし選択肢を知り、誠実に向き合うことで、地主にも借地人にも納得のいく解決が生まれる。悩みを抱えたまま放置するより、一歩踏み出すことが大切だ。
【この記事で学べること】
底地の売却方法は①借地人への買取打診 ②投資家への単独売却 ③借地人と共同売却の3つです。底地単独の売却価格は更地価格の15~30%程度が目安。誠実な対話が双方にとってよい解決につながります。




