『借地権の評価額』税務署と不動産屋の違い
石井雄太は、父から相続した借地権について、相続税の申告準備を進める中で、大きな戸惑いに直面していた。顧問税理士から示された相続税評価額は、路線価に借地権割合を掛け合わせた金額で、雄太が想像していたよりもかなり高い数字だった。「こんなに評価額が高いと、相続税の負担も相当な額になってしまう」と、雄太は不安を募らせた。父が長年この土地で小さな工務店を営んでいたが、雄太自身は跡を継ぐ予定もなく、いずれ売却も視野に入れていた。
念のため、地元の不動産会社にも相場を聞いてみることにした。ところが、担当者から提示された実勢価格の目安は、税理士が示した相続税評価額よりも大幅に低いものだった。「この土地は間口が狭くて奥行きが深い、いわゆる旗竿地に近い形状で、しかも敷地の一部が不整形になっています。実際に売ろうとすると、使い勝手の悪さがどうしても価格に響いてしまうんです」。雄太は、同じ土地なのに、税務署の評価と市場での評価がこれほど違うのかと驚いた。
疑問に思った雄太は、改めて税理士に詳しく尋ねてみた。「相続税の評価額は、国税庁が定める『財産評価基本通達』という統一的なルールに基づいて計算します。路線価という、道路に面した標準的な土地の単価をベースに、借地権割合を掛け合わせるのが基本です。一方、実勢価格は、実際にその土地を売買する際に市場で成立する価格で、需要と供給、土地の使い勝手など、さまざまな要素で変動します。この二つは、そもそも算出の目的も方法も異なるのです」。
税理士はさらに続けた。「ただし、財産評価基本通達には、土地の形状や利用上の制約に応じて評価額を減額できる補正のルールも用意されています。例えば、雄太さんの土地のように間口が狭く奥行きが長い、あるいは形が不整形である場合は、『奥行価格補正』や『不整形地補正』といった調整を適用することで、評価額を実態に近づけることができます」。無道路地や、がけ地を含む土地など、他にも様々な補正のパターンがあるとの説明も受け、雄太は、単に路線価と借地権割合を掛けただけの金額が、必ずしも最終的な評価額ではないのだと知り、少し希望を持った。
税理士は、土地家屋調査士による測量図をもとに、土地の形状や間口・奥行きの比率を正確に算定し、適用できる補正率を一つずつ確認していった。当初の申告書案では見落とされていた不整形地の補正が新たに適用できることが分かり、雄太は専門家に細部まで確認してもらうことの重要性を、身をもって実感した。図面上の数値をミリ単位で確認しながら補正率を割り出す作業は地道なものだったが、その積み重ねが最終的な評価額に大きく影響することを、雄太は目の当たりにした。その結果、当初提示されていた評価額から、二割近く評価額を圧縮することができた。
修正された評価額をもとに相続税を計算し直すと、当初の想定よりも納税額を抑えることができた。雄太は無事に申告期限内に手続きを終えることができ、実勢価格とのギャップに戸惑った当初の不安から、ようやく解放された。
この経験を通じて雄太は、相続税評価額と実勢価格は目的の異なる別々の指標であること、そして評価額には土地の個別事情を反映させる補正の余地があることを学んだ。借地権や不整形な土地を相続した際は、路線価をそのまま鵜呑みにせず、専門家に細かく確認することの大切さを、雄太は今回のことで痛感している。申告を終えた後、雄太は改めて土地の売却も検討し始め、今度は実勢価格をベースにした資金計画を立て直している。
学びのボックス
| 財産評価基本通達とは | 相続税・贈与税の計算に使う統一的な土地評価ルール。路線価に借地権割合を掛け合わせて借地権の評価額を算出するのが基本。 |
| 相続税評価額と実勢価格の違い | 相続税評価額は税務上の統一ルールに基づく金額、実勢価格は市場の需給や土地の使い勝手を反映した実際の取引価格。両者は目的も算出方法も異なる。 |
| 奥行価格補正 | 標準的な奥行きと異なる土地について、奥行きの長さに応じて評価額を補正する仕組み。 |
| 不整形地補正 | 土地の形状が不整形である場合に、その使い勝手の悪さを反映して評価額を減額する補正。 |
| 専門家への確認の重要性 | 測量図をもとに土地の形状や間口・奥行きを正確に把握し、適用できる補正を漏れなく確認することで、適正な評価額に近づけられる。 |




