ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
「底地を売りたい。でも弟二人が問題で……」
福岡市郊外に住む長女・西田奈津子(五十四歳)が弁護士事務所を訪れたのは、真夏の午後のことだった。一年前に母が他界し、郊外の借地(底地)を三姉弟で共有名義として相続した。しかし話はそこから一向に進んでいない。
■ 三者三様の「困った相続」
奈津子には弟が二人いる。次男の浩二(五十歳)は「今は売りたくない。相場が上がるまで待つべきだ」と主張して話し合いを拒否している。三男の隆司(四十六歳)は十年前に家族と失踪同然に姿を消し、現住所も連絡先もわからない。
底地には借地人・谷口さんが三十年来の賃借をしており、毎月の地代は三人の口座に三分の一ずつ振り込まれている。管理自体はできているが、売却も活用もできない宙吊り状態だ。
「このままでは何も動かせません」と奈津子は弁護士の中村先生に訴えた。
■ 2023年民法改正が開いた扉
中村先生は静かに切り出した。「奈津子さん、実は2023年に施行された改正民法が、こうした状況に新しい道を開いています」
改正前は、共有物の「変更」(底地の売却など)には共有者全員の同意が必要だった。一人でも反対すれば完全に行き詰まる構造だった。
「改正後は二つの制度が使えます。一つは『所在不明共有者の持分取得』。隆司さんの所在が確認できなければ、裁判所に申し立てて奈津子さんと浩二さんがその持分を取得できます。もう一つは『所在不明共有者の持分譲渡許可』。底地全体を売りたい場合、裁判所の許可を得て隆司さんの持分ごと第三者へ売却できます」
■ 反対する弟への対処法
「では浩二の反対はどうなりますか」と奈津子は尋ねた。
「浩二さんの同意なしに売却はできません。ただ、共有者はいつでも共有物の分割を請求できます(民法二五六条)。協議が整わなければ、裁判所に共有物分割請求訴訟を起こすことができます。裁判所が競売や代償分割の形で決着をつけることになります」
「つまり、浩二が永遠に反対し続けることはできない、ということですね」
「そういうことです。ただ訴訟は時間と費用がかかる。まずは浩二さんと誠実に話し合い、代償金の提示など歩み寄れる条件を探ることをお勧めします」
■ 一歩ずつ、前へ
奈津子はまず隆司の所在調査を弁護士に依頼した。戸籍の附票を辿ったところ、隆司は九州内の別の市に転居届を出していることが判明した。行方不明ではなく、単に連絡を絶っていたのだ。
弁護士から手紙が届いたことで、隆司は渋々ながら協議に姿を現した。浩二も弁護士を立てた交渉を経て、奈津子が代償金を支払う形での持分取得に合意した。
相続から一年半。奈津子はようやく底地を単独所有し、借地人の谷口さんとの窓口も一本化できた。
共有名義の底地は、放置すれば「負動産」になりかねない。しかし改正民法の新制度と専門家の力を借りれば、複雑な共有関係も必ず解きほぐせる。
学びのボックス:共有底地と民法改正のポイント
|
共有物の変更・管理要件の緩和 |
2023年施行の改正民法により、共有物の「管理」は持分過半数、軽微でない「変更」は共有者全員の同意が原則。ただし裁判所が不在・不明の共有者の同意を補完できる制度が新設された。 |
|
所在不明共有者の持分取得 |
所在が不明な共有者の持分について、裁判所に申し立てることで他の共有者がその持分を取得できる制度(改正民法262条の2)。 |
|
所在不明者の持分譲渡許可 |
共有物全体を売却したい場合、裁判所の許可を得て所在不明共有者の持分を含めて第三者へ譲渡できる(改正民法262条の3)。 |
|
共有物分割請求 |
共有者は原則としていつでも共有物の分割を請求できる(民法256条)。協議不成立なら裁判所に分割請求訴訟を提起できる。 |
|
専門家への早期相談 |
共有名義の底地処分は登記・法律・税務が複雑に絡む。弁護士・司法書士・不動産鑑定士への早期相談が解決を早める。 |




