底地50%、借地権40%――バラバラでは安い二つの権利が、手を組んで「満額」になった日
――地主と借地人の共同売却が実現した、完全所有権としての価値
地主の三代目として先代から底地を引き継いだ坂本悠一は、複雑な思いを抱えていた。自宅の隣に広がる百坪ほどの土地には、借地人の長谷川家が三代にわたって暮らしている。地代収入はあるものの、更新料や承諾料をめぐるやり取りは面倒で、いつか手放したいと考えていた。ただ、底地専門の買取業者に相談すると、提示額は更地評価額の半分にも満たなかった。「底地だけでは、どうしてもこの水準になってしまいます」と担当者は淡々と告げた。坂本は納得のいかないまま、しばらく決断を先送りにしていた。
一方、借地人の長谷川誠も同じ悩みを抱えていた。祖父の代からこの土地を借り、家を建てて住んできたが、自分の代でこの家をどうするか、そろそろ決めなければならない年齢になっていた。子どもたちはすでに独立して別の場所に家を構えており、古い借地権付きの家を継ぐ意思はなさそうだった。借地権だけを売ろうにも、買い手は「地主との関係が不透明な借地権」を敬遠し、これもまた更地評価の半分以下でしか値が付かないと言われた。「結局、底地も借地権も、単独ではこんなに安くなるものなのか」と誠は肩を落とした。
偶然の立ち話から生まれた提案
ある日、庭の手入れをしていた坂本と長谷川が顔を合わせ、世間話のついでにそれぞれの悩みをこぼし合った。「実はうちも底地を手放そうか迷っていて」「うちもです、借地権だけじゃ大した額にならないと言われて」互いの本音を知った二人は、驚いた顔で見つめ合った。「それなら、いっそ一緒に売ってしまえないものか」坂本がふと漏らした一言が、その後の展開を大きく動かすことになる。
二人は不動産コンサルタントに相談した。担当者は即座にこう説明した。「底地と借地権は、もともと一つの完全な所有権が分かれたものです。バラバラに売ればそれぞれ市場価値の目減りが大きいですが、両方をセットにして『更地としての完全な所有権』として売却すれば、開発を狙う事業者にとって非常に魅力的な物件になります。買い手の選択肢も価格も、まったく違う水準になりますよ」
その言葉に背中を押され、坂本と長谷川は共同売却に踏み切ることを決めた。まず専門家に依頼し、それぞれの権利の評価割合を算定してもらった。立地条件や残存借地期間、建物の状態などを踏まえた結果、底地側の取り分を六割、借地権側の取り分を四割とする配分案がまとまった。数字を巡って多少の意見交換はあったものの、感情的な対立には至らず、双方が納得できる線に落ち着いた。合意内容は覚書として書面化し、後々のトラブルを避ける工夫もなされた。
大手デベロッパーへの売却と山分け
完全所有権としてまとめられた土地情報は、複数の不動産会社を通じて大手デベロッパー数社に打診された。マンション用地を探していたデベロッパーの一社が強い関心を示し、更地としての適正な市場価格で買い取る意向を示した。坂本と長谷川がそれぞれ単独で売却していたら到底届かなかった金額だった。契約はスムーズに進み、売却代金は事前に合意していた評価割合どおり、六対四で正確に分配された。両家とも、想定していた金額を大きく上回る結果に驚きを隠せなかった。
「まさか隣同士でこんな話がまとまるとは思わなかったよ」と坂本は笑った。長谷川も「一人で借地権だけ売ろうとしていたら、きっと今頃後悔していたと思います」と語る。底地と借地権は、更新料や承諾料をめぐって対立する権利として扱われがちだが、両者が協力し合えば、それぞれの価値を最大限に引き出せる。専門家を間に立て、早い段階で本音を共有できたことが、今回の結果を大きく左右したといえる。坂本家と長谷川家の事例は、そんな可能性を静かに証明していた。
学びのボックス
| 項目 | 内容 |
| 底地・借地権が単独では安い理由 | 権利関係が複雑で買い手が限定されるため、単独売却では更地評価の50%以下になることが多い。 |
| 共同売却(完全所有権化)とは | 地主と借地人が協力し、底地と借地権を一体化させて更地としての完全な所有権として売却する手法。 |
| 売却益の配分方法 | 立地条件・残存借地期間・建物状況等を踏まえた評価割合を専門家が算定し、その比率で売却代金を分配する。 |
| 買い手の広がり | 完全所有権になることで、開発用地を求める大手デベロッパー等、単独では対象外だった買い手層にアプローチできる。 |
| 成功の鍵 | 地主・借地人双方が早期に本音を共有し、専門家を交えて評価割合を客観的に定めることが円滑な合意につながる。 |




