ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
父・永井義雄が七十九年の生涯を閉じたのは、枯れ葉が舞い始める十月の朝だった。
残されたのは、三十年来暮らしてきた借地上の木造二階建て。土地は近隣地主・田端家のものだが、建物と借地権は義雄の財産として遺産に含まれる。相続人は長男の永井信也(五十三歳)と次男の哲也(四十九歳)の二人だ。
葬儀が終わり、四十九日の法要を終えたころから、兄弟の間に少しずつ亀裂が入り始めた。
「俺が住む」「俺は現金が欲しい」
「実家はおれが引き継ぐ。母さんの仏壇もあるし、この家を手放すつもりはない」と信也は言い切った。
哲也の反論はすぐに来た。「感情論は別にして、借地権には財産価値がある。おれの取り分を現金で寄越してくれ。でないと合意できない」
信也にとって寝耳に水だった。借地権に値段がつくとは考えたこともなかった。
税理士の小泉先生に相談したところ、予想外の数字が出てきた。「路線価と借地権割合で計算すると、このエリアの借地権評価額はおよそ二千四百万円になります」
つまり哲也の法定相続分(二分の一)に相当する取り分は一千二百万円。信也は絶句した。
まず地主に通知を
「そもそも、借地権を相続するのに地主の許可は必要なんですか」と信也は小泉先生に尋ねた。
「借地権の相続は、地主の承諾なしに行えます。承諾料も発生しません。ただし、誰が借地権を引き継いだかを地主に通知し、契約名義を変更しておくことが実務上のルールです。田端さんには早めに一報を入れておきましょう」
信也は翌週、田端家を訪れて父の他界と自身が借地権を引き継ぐ予定である旨を伝えた。田端家は「承知しました。名義変更の書類ができたらまたご連絡ください」とあっさり応じてくれた。承諾料を求める様子はまったくなかった。
代償分割という着地点
地主との関係は整ったが、兄弟間の協議は難航した。哲也は「一千二百万円を現金で払え」と主張し続け、信也には到底そんな手元資金がなかった。
行き詰まったタイミングで、小泉先生が提案した。「代償分割という方法があります。信也さんが借地権を単独取得する代わりに、哲也さんへ代償金を支払う。資金が手元にないなら、住宅ローンの借り換えや不動産担保ローンで捻出することも選択肢です」
さらに不動産鑑定士も交え、借地権の市場価値(鑑定評価額)を改めて算出すると、相続税評価額より低い一千九百万円が妥当との結論になった。哲也への代償金は九百五十万円で再交渉し、最終的に哲也も納得した。
形のない権利に値段をつける
代償金の支払いから二週間後、信也は田端家に名義変更の手続きを終えた書類を届けた。
帰り道、信也は実家の玄関前で立ち止まった。自分の名前になった借地権。三十年間、この家で家族が暮らしてきた歴史が、ようやく正式に自分の手に渡った気がした。
借地権は「形のない権利」だが、相続においては立派な財産だ。評価の方法を知り、適切な分割の手段を選べば、兄弟間の争いも必ず着地できる。
【学びのボックス:
借地権の相続と遺産分割のポイント】
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借地権は相続できる |
借地権は相続財産として扱われ、相続人が引き継ぐことができる。地主の承諾は不要で、承諾料も発生しない。 |
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地主への通知は必要 |
承諾は不要だが、相続開始後に誰が借地権を承継したかを地主に通知することが実務上のマナー。契約名義変更の手続きも行う。 |
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借地権の評価方法 |
相続税評価では「路線価×土地面積×借地権割合」で算出。借地権割合は地域により30〜90%で異なり、国税庁の路線価図で確認できる。 |
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代償分割という選択 |
特定の相続人が借地権を単独取得し、他の相続人に現金(代償金)を支払う方法。住み続けたい場合に有効な手段。 |
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専門家への相談 |
借地権の評価や代償金額の算定は不動産鑑定士や税理士が適任。地主との関係維持も含め、早期に専門家を交えた協議を。 |




