『違法建築(容積率オーバー)』の借地権建物!買主の住宅ローン審査不合格
内田芳江は七十歳。三十五年前に建てた借地上の家を売って、娘の住む街のマンションへ移ることにした。敷地は約百平方メートル。地主の承諾をもらい、不動産会社に二千二百万円で売り出すと、一か月ほどで、三十代の夫婦が購入を申し込んできた。売買契約には、住宅ローンの審査が通らなければ白紙に戻す、という特約が付いた。
ところが、二週間後、不動産会社から電話が入った。「買主さんのローン審査が、通りませんでした」。理由を聞いて、芳江は愕然とした。建物が、建築基準法の容積率を超えている違反建築物だというのだ。この土地の容積率は百パーセント。延べ床面積の上限は約百平方メートルのはずが、現状は約百十九平方メートルあった。
思い当たることがあった。二十年前、息子が同居を始めたとき、二階に部屋を二つ増築した。建築士を通さず、知り合いの工務店に頼んだ。建築確認の申請もしなかった。地主にも、事後に伝えただけだった。当時は、家が広くなって喜ぶだけで、法律のことなど考えもしなかった。固定資産税の通知が少し上がったことにも、特に疑問を持たなかった。
不動産会社の担当者は、申し訳なさそうに、事情を説明した。「銀行は、融資の対象となる建物が、法令に適合していることを条件にしています。違反建築物は担保の評価が下がり、融資を断られることが多いのです。契約は、ローン特約により白紙解約となり、手付金はお返しすることになります」。芳江は、すべてが振り出しに戻ったことに、肩を落とした。引っ越し先の部屋の契約も進めていたため、焦りは大きかった。
相談を受けた建築士は、現地を調査したうえで、まず説明した。法改正で後から基準に合わなくなった建物とは違い、増築で基準を超えた建物は、違反として扱われる。そのうえで、二つの方向を示した。一つ目は、現金で購入できる買主を探す方法だ。違反建築物でも、不動産業者が買い取る場合がある。ただし、価格は相場より大幅に下がり、提示額は約千五百万円だった。業者は、違反を是正する手間とリスクを見込んで、価格を下げるのだという。二つ目は、増築した部分の一部を撤去して、容積率の範囲に収める減築の方法だ。減築の費用は約二百八十万円と見積もられた。
芳江は、迷った末に、減築を選んだ。業者に買い叩かれるより、費用をかけても適法な状態にして売るほうが、手元に残る額が多いと判断したのだ。建築士に図面を作成してもらい、行政の窓口にも事前に相談した。芳江は、思い出の詰まった部屋が取り壊されるのを、少し寂しい気持ちで見守った。工事は一か月ほどで終わり、二階の部屋の一つが撤去された。延べ床面積は、上限の範囲に収まった。
改めて売り出すと、条件を知った別の買主が現れ、二千百万円で売買が成立した。今度は、銀行の審査も通った。工事の経緯は、重要事項として買主に説明した。地主にも、過去の増築から今回の減築までを正直に報告し、あらためて譲渡の承諾を得た。売却代金二千百万円から減築費用の二百八十万円を引いても、手取りは約千八百二十万円。現金買いの提示額、千五百万円を上回った。
芳江は、「あのとき、一言でも相談しておけば」と、今も思い返す。借地の建物を増築するときは、地主の承諾と建築確認の両方が必要だ。そして、売却の前には、建築士に建物の状況を調べてもらい、違反があれば、早めに対策を考えること。芳江は、同じ年代の友人に、そう伝えている。
学びのボックス
| 違反建築物とは | 建築基準法の容積率・建ぺい率などを超えた建物。無断増築で超過した場合が典型で、建築確認の有無が売却時に問われる。 |
| 住宅ローンが通らない理由 | 銀行は、融資対象の建物が法令に適合していることを重視する。違反があると担保評価が下がり、審査に通らないことが多い。 |
| ローン特約と白紙解約 | ローンが通らなければ契約を白紙に戻す特約があれば、手付金は返還される。売主は、再度の売却活動が必要になる。 |
| 現実的な二つの対応 | 現金で購入できる買主や業者を探す方法は価格が下がりやすい。増築部分を撤去する減築で是正する方法は、費用と手取りを比べて判断する。 |
| 借地上の増築と事前確認 | 借地では、増築に地主の承諾が必要な場合が多い。売却前に建築士へ調査を依頼し、違反の有無と対応を確認しておく。 |




