『隣地との境界杭がない』底地の境界確定
横山誠治は、相続した底地を売却しようと不動産会社に相談したところ、思わぬ壁にぶつかった。「隣地との境界杭が見当たらないので、このままでは正式な売却活動を進められません」。担当者からそう告げられ、誠治は改めて土地の境界を確認する必要に迫られた。この土地は祖父の代から借地人に貸し続けてきたもので、誠治自身、実際に現地を訪れたことすらほとんどなかった。
土地の隅を歩いて確認してみると、確かにあるはずの境界杭が見当たらない箇所があった。しかも、隣地の塀の一部が明らかにこちらの土地側にはみ出しているようにも見えた。誠治が隣人の田島さんに相談を持ちかけると、「うちの塀はずっと前からこの位置にあるし、境界はここで間違いないはずだ」と、話は平行線をたどってしまった。感情的な言い合いにまで発展しかけ、誠治は途方に暮れた。
土地家屋調査士に相談すると、こうした場合の解決手段として二つの方法があると教えてもらった。「一つは、私たち土地家屋調査士が行う境界確定測量です。過去の公図や測量図、現地の状況を調査し、隣接する土地の所有者双方の立会いのもとで境界を確認し、合意が得られれば境界確認書を取り交わします」。
「もう一つは、法務局が運営する『筆界特定制度』を利用する方法です。これは、当事者間の話し合いだけでは境界について合意ができない場合に、筆界特定登記官が、土地家屋調査士や弁護士などの専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、公的に筆界の位置を特定してくれる制度です。訴訟に比べて費用や期間の負担が少なく、比較的短期間で結論が出ることが多いです」。土地家屋調査士は、境界確定訴訟に比べれば手続きも簡便で、当事者の心理的な負担も軽くて済む点を強調した。
誠治はまず、境界確定測量による話し合いでの解決を試みたが、田島さんは自分の主張を譲らず、立会いのもとでの合意には至らなかった。そこで誠治は、土地家屋調査士のサポートを受けながら、法務局に筆界特定の申請をすることにした。
筆界特定の手続きでは、過去の公図、登記記録、現地の測量結果など、さまざまな資料に基づいて、筆界調査委員が現地調査を行った。誠治と田島さんもそれぞれ意見を述べる機会が与えられ、双方の言い分を踏まえたうえで判断が下される仕組みだった。数か月後、法務局から正式に筆界特定の結果が通知され、境界の位置が客観的に確定した。結果として、田島さんの塀の一部が実際にわずかに越境していたことが明らかになった。
筆界特定の結果を受けて、誠治と田島さんはあらためて話し合い、越境部分については田島さんが塀を後退させる形で対応することになった。感情的な対立が続いていた二人だったが、公的な機関による客観的な判断が示されたことで、かえって落ち着いて解決に向かうことができた。
境界が確定したことで、誠治は無事に底地の売却活動を再開することができた。この経験を通じて誠治は、境界の問題は当事者同士の話し合いだけでは感情的にこじれやすいものの、公的な制度を活用すれば、案外スムーズに解決できることを学んだ。数か月後、底地は無事に希望の価格で売却が成立し、誠治は境界確定にかかった費用を差し引いても十分な手取りを得ることができた。田島さんとは、塀の後退工事が終わった後、道端で顔を合わせるたびに挨拶を交わす程度の関係に落ち着いている。
学びのボックス
| 境界杭がない場合のリスク | 境界が不明確なままだと、不動産の正式な売却活動を進めにくく、隣人との越境トラブルの原因にもなる。 |
| 境界確定測量とは | 土地家屋調査士が公図・測量図・現地状況を調査し、隣接地所有者双方の立会いのもとで境界を確認する方法。 |
| 筆界特定制度とは | 法務局の筆界特定登記官が、筆界調査委員(土地家屋調査士・弁護士等)の意見を踏まえて公的に筆界の位置を特定する制度。 |
| 訴訟との違い | 境界確定訴訟に比べて、筆界特定制度は費用や期間の負担が少なく、比較的短期間で結論が出ることが多い。 |
| 越境トラブルへの対応 | 筆界特定の結果、越境が判明した場合は、越境部分の是正(後退等)について当事者間で改めて協議する。 |




