『一時使用目的の借地』プレハブ事務所の解約
村井信二は、自宅近くに所有する空き地を、大手ゼネコンから「近隣の再開発工事の間、作業員の飯場と資材置き場として貸してほしい」と依頼された。工期はおよそ三年の見込みで、工事が終われば更地に戻して返還するという条件だった。信二は、遊ばせていた土地から一定期間だけ収入を得られるのは魅力的だと感じたが、通常の借地契約とは勝手が違うのではないかと不安になり、司法書士に相談することにした。長年空き地のまま固定資産税だけを払い続けてきたこともあり、収入が得られること自体には強く惹かれていた。
「工事期間中だけ土地を貸すようなケースは、借地借家法上の『一時使用目的の借地』として扱われる可能性があります。この一時使用目的の借地に該当すれば、通常の借地権に適用される更新の保障や、正当事由がなければ契約を終了できないといった強い保護規定が適用されません」。司法書士はそう説明した。
信二にとって、これはまさに求めていた仕組みだった。「もし通常の借地契約として扱われてしまうと、工事が終わって土地を返してほしいと思っても、借地人側が居座ってしまえば、簡単には出て行ってもらえなくなる可能性があるということですか」と信二が尋ねると、司法書士はうなずいた。「そのとおりです。ですので、一時使用目的であることを、契約書上で明確に、かつ客観的に裏付けられる形にしておくことが非常に重要になります」。
司法書士はさらに詳しく説明を続けた。「単に契約書に『一時使用目的』と書くだけでは不十分です。裁判例では、賃貸借の目的、工事の内容や工期、契約期間の合理性、更新の予定がないことなど、実質的な事情を総合的に見て、本当に一時的な利用にすぎないかどうかが判断されます。工期に対応した明確な期間設定と、期間満了後は更新せず必ず土地を返還する旨を、具体的に記載しておく必要があります」。信二は、契約書のわずかな文言の違いが、後々の権利関係を大きく左右することに気づかされた。
信二はゼネコンの担当者とともに、契約書の文言を慎重に詰めていった。工事の着工日と完工予定日を明記し、契約期間もその工期にきっちり合わせる形にした。また、契約書には「本契約は一時使用のためのものであり、期間満了後の更新は一切行わない」という文言を盛り込み、なぜ一時使用と言えるのかの根拠となる工事計画書も添付資料として契約書に組み込んだ。地代についても、周辺の相場より高めに設定することで、長期の居住や事業利用を前提としない一時的な利用であることを裏付ける材料の一つとした。
三年後、工事は予定どおり完了し、ゼネコンは飯場のプレハブ事務所と資材置き場を撤去して、更地の状態で土地を信二に返還した。返還時には境界の確認や地表面の状態も、双方立会いのもとで確認し合った。契約書に一時使用目的であることが具体的な根拠とともに明記されていたおかげで、返還交渉に大きなトラブルが生じることはなかった。
この経験を通じて信二は、一時的に土地を貸す場合であっても、「一時的」という言葉だけに頼らず、期間や目的を具体的な事実で裏付けておくことの大切さを学んだ。次に同じような依頼があれば、今回の契約書をひな形として活用しようと考えている。数か月後、別の建設会社から同様の依頼を受けた信二は、司法書士に相談することなく、今回の契約書をベースに条件を調整するだけで、スムーズに契約を締結することができた。
学びのボックス
| 一時使用目的の借地とは | 借地借家法25条により、一時使用のために設定されたことが明らかな借地権には、更新や存続期間などの強い保護規定が適用されない。 |
| 一時使用と認められるための要素 | 賃貸借の目的、工事内容・工期、契約期間の合理性、更新予定がないことなど、実質的な事情を総合的に見て判断される。 |
| 契約書に盛り込むべき内容 | 具体的な工期に対応した契約期間、更新を行わない旨の明記、工事計画書等の裏付け資料の添付が重要。 |
| 地代設定の工夫 | 周辺相場より高めの地代設定など、長期利用を前提としない実態を裏付ける材料も判断要素になり得る。 |
| 返還時のトラブル防止 | 境界確認や地表面の状態確認を双方立会いで行い、契約終了時の原状回復・返還条件を明確にしておくことが望ましい。 |




