『借地上の駐車場運用』建物所有目的違反で地主から契約解除されるか?
高木誠は、五十八歳。亡くなった母から、借地上の古い家を相続した。築五十年を超え、雨漏りもひどい。住む予定のない家の毎年の固定資産税と修繕費が重荷で、誠は解体を決めた。解体費用は、約百五十万円かかった。更地になった土地を見て、ふと思いついた。この場所なら、駅に近い。コインパーキングにすれば、収益が出るのではないか。
地主に話せば、反対されるかもしれない。地代を上げろと言われるのも、嫌だった。面倒に思った誠は、相談しないまま、駐車場会社と契約した。舗装と精算機の設置が終わり、八台分の駐車場が開業した。月の収益は約十二万円。地主に払う地代は月五万円だから、差し引き七万円ほどが手元に残る。開業から数か月で、利用も安定してきた。誠は、思った以上の稼ぎに、満足していた。浮いたお金で、旅行に行こうかとさえ考えていた。
一年ほどたったころ、地主の井上さんが、たまたま近くを通りかかった。土地の上に古家はなく、精算機と看板が立っている。井上さんは、目を疑った。誠からは、解体の連絡すら、一度も受けていなかった。借地契約は、建物を所有するためのもの。駐車場にするなど、聞いていない。井上さんは、すぐに弁護士に相談した。
弁護士は、まず、借地借家法の考え方を説明した。借地権として保護されるのは、建物の所有を目的とした契約に限られる。契約が建物所有目的であるのに、建物を取り壊して駐車場にするのは、契約で定めた使い方に反する用法違反にあたるおそれがある、と。
ただし、すぐに解除が認められるとは限らない。解除が認められるかは、当事者の信頼関係が壊れたといえるかどうかで判断されると考えられている。駐車場にした期間、地主が受ける不利益、建物を再築する見込み、借地人の態度など、事情を総合して見るのだという。「無断だった点は、地主さんに有利な事情になります」と、弁護士は付け加えた。
弁護士は、証拠を集めた。駐車場の写真、運営会社の看板、登記事項証明書、近隣の駐車場の相場。そのうえで、内容証明郵便を送り、駐車場の運用をやめて、建物を再築するよう求めた。期限までに是正しなければ、契約を解除するという通知も添えた。井上さんが望んだのは、土地の返還よりも、まず元の使い方に戻してもらうことだった。
届いた通知を見て、誠は青ざめた。借地権まで失うかもしれない。誠は慌てて、自分の弁護士に相談した。弁護士は、誠に厳しい見通しを伝えた。無断で目的を変え、収益も得ていた以上、信頼関係を壊したと判断される可能性は、決して低くない。「今ならまだ、話し合いで間に合います」。その言葉が、誠の背中を押した。
誠は、井上さんに、直接会って謝罪した。井上さんは、黙って最後まで話を聞いてくれた。そのうえで、駐車場会社との契約を解約し、駐車場を撤去し、半年以内に建物を再築することを約束した。さらに、無断で得た収益の一部にあたる解決金八十万円を支払うことで、双方が合意した。合意内容は、書面にして、きちんと残した。再築の工事が始まったのは、その三か月後のことだった。
誠は今、こう話している。借地を別の目的で使いたいときは、まず地主に相談すること。目的を変えるなら、書面で合意し、承諾料や地代の見直しも話し合うこと。目的が駐車場になれば、借地借家法の保護が及ばなくなるおそれもある。自己判断で進める前に、専門家へ相談することが、結局は、いちばんの近道だった。
学びのボックス
| 借地借家法の対象 | 借地借家法の借地権は、建物の所有を目的とする地上権・賃借権が対象。駐車場など建物がない利用では、同法の保護が及ばないおそれがある。 |
| 用法違反のリスク | 建物所有目的の契約で、建物を壊して駐車場にすると、契約で定めた使い方に反するおそれがある。解除や損害賠償の問題に発展しうる。 |
| 解除の判断基準 | 解除が認められるかは、信頼関係が壊れたかどうかを総合して判断されると考えられている。期間、不利益、再築の見込みなどが材料になる。 |
| 地主側の手順 | 現状の写真、運営会社の看板、相場の資料などを集め、内容証明郵便で是正を催告する。解除は弁護士など専門家に確認してから進めたい。 |
| 借地人の事前対応 | 使い方を変えたいときは、事前に地主へ相談し、書面で合意する。承諾料や地代の見直しも、あわせて話し合っておくと安心。 |




