『底地の買取提案』地主から相場より高い価格を提示された時の交渉術
内田健は、六十二歳。三十年以上、借地の上の自宅に住んでいる。ある日、地主の長谷川さんから連絡があった。「うちの底地を、買い取ってもらえませんか。完全な所有権にできますよ」。地主は高齢になり、相続の準備として、土地を整理したいという。子どもたちに、揉め事を残したくない、という思いもあるようだった。
提示された価格は、約二千万円だった。土地を更地として評価した価格は約四千万円で、その五割にあたる。健は、すぐには答えられなかった。買い取れれば、地代の支払いも、承諾料の心配もなくなる。建替えも自由になる。魅力は大きい。妻に相談すると、「老後の住まいが安心になるなら」と、前向きだった。けれど、二千万円は、高すぎるのではないか。
健は、まず、知り合いの不動産会社と、不動産鑑定士に相談した。まず教えられたのは、底地の価格の考え方だった。借地権割合が六割の地域なら、残りの四割が、一般に底地割合と呼ばれる。四千万円の四割、つまり、約千六百万円。これが、価格を考える一つの目安になる。ただし、地域や契約の内容で、割合は変わるという。
次に、底地が市場で第三者に売られる場合の価格を、聞いた。底地は、地主が自由に使えない土地で、借地人がいるため、買い手が限られる。銀行も、担保としては評価しにくいという。そのため、第三者への売却価格は、更地価格の一割から三割程度になる例が多いと言われている。四千万円なら、約四百万円から千二百万円だ。
ただし、鑑定士は、重要な点も教えてくれた。借地人が底地を買う場合は、完全な所有権になる価値があるため、第三者への売却より、高くなることがある。つまり、市場価格だけを根拠に、大きく値切ろうとしても、地主は納得しない。両方の視点から、冷静に根拠を示す必要がある。健は、メモを取りながら、何度もうなずいた。
健は、鑑定士に、費用は数十万円かかったが、簡易な意見書をつくってもらい、長谷川さんと話し合った。「二千万円は、一般的な底地割合を上回っています。第三者への売却相場は、これより低いのも事実です。一方で、私が買えば、地主さんも、手間なく現金化できるはずです」。健は、感情的にならないよう、数字を一つずつ示した。長谷川さんは、腕を組んで、黙って聞いていた。
健は、長谷川さんの事情も、あらためて聞いた。地主は、相続税の納税資金が必要で、できるだけ高く売りたい。しかし、第三者に売ろうとすれば、時間もかかり、価格も大きく下がる。その点を、長谷川さんも、改めて認識した。借地人の健とは、長い付き合いで、関係をこじらせたくない気持ちもあった。数回の話し合いのすえ、長谷川さんから、約千百万円の提案があった。
健は、最終的に、約千百万円で合意した。更地価格の約二割七分五厘にあたる。提示額の二千万円からは、約九百万円の減額だ。代金は、手持ちの預貯金と、退職金の一部で払えた。司法書士に立ち会ってもらい、売買契約書を交わし、所有権移転登記も済ませた。土地と建物が同じ名義になり、借地権は、混同によって消えた。
健は今、こう話している。底地の買取りは、地主と借地人、どちらにもメリットがある。価格は、更地価格の割合だけでなく、第三者への売却相場や、鑑定の意見をふまえて、冷静に話し合うこと。測量や境界の確認、登記や税金の費用も、あらかじめ考えておくこと。迷ったら、専門家に早めに相談することだと、健は思っている。
学びのボックス
| 底地割合の考え方 | 更地価格から借地権割合を引いた割合が、底地割合と呼ばれ、価格を考える一つの目安になる。地域や事案により異なる。 |
| 第三者への売却相場 | 底地は買い手が限られ、第三者への売却は更地価格の1〜3割程度になる例が多いとされる。これも事案により異なる。 |
| 借地人が買う場合 | 完全な所有権になる価値があるため、第三者への売却より高くなることがある。市場価格だけを根拠に大きく値切るのは難しい。 |
| 交渉の進め方 | 鑑定士の意見書など数字の根拠を示し、感情的にならない。地主の事情(納税資金など)も聞いたうえで、落としどころを探る。 |
| 買取後の手続きと費用 | 売買契約、所有権移転登記、測量や境界確認、税金などの費用を見込む。契約前に、専門家へ相談しておきたい。 |




