『無体財産(電柱敷地料・看板料)』地主と借地人どちらが受け取るべき?
中村直人は、五十歳。昨年亡くなった父から、約四十坪の底地を相続した。借地人は、久保さん。久保さんは、土地の上の建物で小さな店を営みながら暮らしている。地代は毎月きちんと振り込まれ、これまで大きな問題はなかった。直人は、父の代からの付き合いを、大切にしたいと思っていた。
相続の手続きが落ち着いたころ、直人は、父の通帳を整理していた。すると、毎年同じ時期に、電力会社から小さな入金があるのに気づいた。年間約三千三百円。名目は電柱敷地料だった。電力会社の通知書も、封筒に入ったまま、残されていた。土地の隅に、電柱が一本立っているのだ。子どものころから見慣れていて、特に気にしたこともなかった。
同じころ、直人は、久保さんの店の外壁に、飲料メーカーの大きな看板が掲げられているのに気づいた。尋ねると、久保さんは、看板料として年間約十二万円を受け取っているという。直人は、少し引っかかった。「土地は私のものなのに、同じ土地から入るお金を、片方だけが受け取っているのでは」。
直人は、父の知り合いだった司法書士に相談した。司法書士は、まず電柱の敷地料から説明した。電柱を土地に立てるには、土地の所有者などの承諾が必要で、敷地料は、その承諾の対価として支払われる。だから、誰が受け取るかは、一般に、電力会社と使用の契約を結んだ当事者が基本になる。
直人は、父が保管していた書類を探した。すると、昭和の時代に、父が電力会社と交わした承諾書が見つかった。電柱は、久保さんが建物を建てる前から立っていた。借地契約の目的は、建物の所有。電柱は、その目的とは別の、土地の使い方だ。承諾したのが地主であれば、敷地料も地主が受け取るのが自然だと、司法書士は話した。
ただし、電柱があることで、借地人が土地を使いにくくなっている場合もある。その場合は、地主と借地人で、敷地料の一部を分けるといった話し合いの余地もある、と補足した。
次に、看板料についても整理した。外壁に取り付けた看板は、借地人が所有する建物の一部を使うもので、建物を使って得られる収入は、原則として、借地人のものと考えられる。ただし、建物の用途に制限がないか、看板の設置が借地契約の目的に反しないかは、確認が必要になる。久保さんの店は、もともと建物の用途として認められていた。敷地内に自立する看板なら、土地の使い方そのものになり、地主の承諾が問題になることもある。
直人は、菓子折りを持って久保さんを訪ね、落ち着いて話した。「看板料を取り上げるつもりはありません。ただ、今後のために、きちんと取り決めたいのです」。久保さんも、事情を聞いて、「実は、承諾をもらうべきか、迷っていたんです」と打ち明けた。長年の付き合いだけに、お互いに、聞きづらかったのだ。
二人は、覚書を交わした。電柱の敷地料は、これまでどおり地主が受け取る。電柱が通行の妨げになる部分については、将来、必要があれば協議する。外壁の看板料は、久保さんが受け取り、看板の内容や期間が変わるときは、事前に直人へ知らせる。金額の大きさより、関係を大切にしたいと、二人の意見は一致した。覚書は、二人が署名し、それぞれが一通ずつ保管した。
直人は今、こう話している。小さな収入でも、権利の整理をしておかないと、あとの相続や地代の見直しで、揉める原因になる。契約書や承諾書を確認し、疑問があれば専門家に相談することだ、と。
学びのボックス
| 電柱敷地料の帰属 | 敷地料は、電柱を設置する承諾の対価。一般に、電力会社と契約を結んだ当事者が基本になるため、承諾書などで確認する。 |
| 借地権との関係 | 借地の目的は建物の所有。電柱は別の土地の使い方であり、承諾した地主が受け取るのが自然と考えられる。使いにくさがあれば協議の余地もある。 |
| 外壁の看板料 | 建物の一部を使う看板は、借地人の収入と考えられる。ただし、建物の用途制限や契約の目的に反しないか、確認が必要。 |
| 敷地内の看板は別 | 敷地に自立して設置する看板は、土地の使い方そのものであり、地主の承諾が問題になることがある。 |
| 取り決めの残し方 | 金額が小さくても、帰属、変更時の連絡、協議の方法を覚書にしておく。承諾書や契約書の確認と、専門家への相談も有効。 |




