『借地権の転貸(又貸し)』建物の賃貸との決定的な違いと契約書チェック
川口浩は、五十八歳。亡くなった母から、借地上の家と借地権を相続した。浩は、すでに別の街に自宅があり、実家は空き家になっていた。地代は月六万円。ただ払い続けるだけでは、もったいない。固定資産税や修繕費の負担も、馬鹿にならなかった。浩は、実家を人に貸して、収入にしようと考えた。
最初に浩が考えたのは、建物の賃貸だった。知り合いの不動産会社を通じて、家族連れに、月十万円で貸した。浩は、地主に承諾を取るべきか迷った。不動産会社は、こう言った。「借地上の建物を人に貸すのは、建物の賃貸です。土地を貸すわけではないので、地主さんの承諾は、原則として不要と考えられていますよ」。
浩は、ほっとした。そして、欲が出た。実家には、建物のほかに、使っていない庭の空き地がある。そこに、近所の店主が、荷物置き場のプレハブを建てたいと言ってきた。月四万円で貸せば、さらに収入になる。地代を払って、おつりがくる計算だった。浩は、建物の賃貸と同じ感覚で、地主に何も言わず、契約した。
店主は、庭にプレハブを建てて、使い始めた。ところが、半年後、地主の石田さんが、近くを通りかかり、庭に見慣れない建物があるのに気づいた。石田さんは、すぐに浩に連絡した。「あれは何ですか。土地を人に貸したのですか」。
浩は、悪びれずに答えた。「建物を貸すのは自由と聞きましたので」。石田さんの声が、険しくなった。「家を貸すのと、土地を貸すのは、まったく違う」。後日、石田さんから、弁護士名で内容証明郵便が届いた。無断転貸にあたるとして、プレハブの撤去と、契約の解除を警告する内容だった。
浩は、青ざめて弁護士に相談した。母が長年守ってきた借地権を、自分の代で失うかもしれない。そう思うと、夜も眠れなかった。弁護士は、違いを丁寧に説明した。借地上の建物を人に貸すのは、建物の賃貸で、借りた人は、建物を使うだけだ。一方、土地の一部を人に貸し、その人が自分の建物を建てて使うのは、土地そのものの転貸になる。借地権の転貸は、地主の承諾が必要だ。
無断で転貸した場合、地主は契約を解除できる場合がある。ただし、解除が認められるかは、信頼関係が壊れたかどうかを総合して判断されると考えられている。転貸の期間、地主の不利益、借地人の対応などが見られる。今回は、地主に黙って建物まで建てさせている点が、浩にとって不利になりうる。
弁護士は、まず契約書の確認を勧めた。浩は、母が交わした借地契約書を見直した。「譲渡・転貸の禁止」の条項が、はっきり書かれていた。建物を第三者に使用させる場合の定めは、なかった。用途や増改築の条項も、確認した。弁護士は、「書かれていないから自由、とは限りません」と、念を押した。
浩は、店主に事情を話し、プレハブを撤去してもらう合意をした。店主への賃料は返還し、撤去の費用は、双方で話し合って分けた。そして、石田さんには、謝罪して、再発防止を誓約した。石田さんは、プレハブがなくなったことを確認して、契約解除は、見送ることにした。浩は、深く頭を下げて、何度も礼を言った。建物の賃貸のほうは、そのまま続けてよいことになった。
浩は今、こう話している。建物を貸すのと、土地を貸すのは、似ているようで、全く違う。迷ったら、まず契約書を確認し、地主に相談すること。承諾は、口約束でなく、書面で受けておくこと。専門家への相談は、早いほうがよい、と。
学びのボックス
| 建物の賃貸は原則承諾不要 | 借地上の建物を第三者に貸すだけなら、土地の転貸にはあたらず、地主の承諾は原則として不要と考えられている。契約書の特約は要確認。 |
| 土地の転貸は承諾が必要 | 土地の一部を貸し、借りた人が自分の建物を建てて使う場合は借地権の転貸。無断で行うと契約解除のおそれがある。 |
| 解除の判断 | 無断転貸でも、解除が認められるかは信頼関係が壊れたかどうかを総合して判断されると考えられている。期間や地主の不利益などが材料になる。 |
| 契約書のチェック項目 | 譲渡・転貸の禁止条項、建物を第三者に使用させる場合の定め、用途や増改築の条項などを確認する。 |
| 承諾は書面で | 承諾を得るときは、口約束にせず書面にする。トラブルになりそうなときは、早めに弁護士など専門家へ相談したい。 |




