『底地の物納』国税局が撥ねる理由と物納適格化の条件
沢田健は、父の死後、複数の底地を相続した。ところが、相続税の額は思った以上に大きく、預貯金だけではとても足りなかった。延納を考えても、毎年の返済は重い。会社員の健には、まとまった現金もなかった。健は、税理士から「相続した底地そのものを国に納める、物納という方法もあります」と聞き、藁にもすがる思いで申請を検討し始めた。
「物納は、延納によっても金銭で納めることが難しい場合に、その困難な金額の範囲で認められる制度です。不動産は、物納に充てられる財産の中でも優先順位が高い部類に入ります」。税理士はそう説明した。「納める財産の価額は、原則として相続税の評価額になります。市場で売れる価格より低く評価されている場合もあるので、売却して現金化できる土地なら、そちらのほうが有利なこともあります。物納は、あくまで最後の手段として考えてください」。税理士は続けた。「ただし、国が引き取った後に管理や処分に困るような財産は、『管理処分不適格財産』として、物納に充てることができません。まず、持っている底地が、その条件に当てはまらないかを確かめる必要があります」。
税理士は、不適格になりやすい典型例をいくつも挙げた。「たとえば、境界が明らかでない土地。隣地の所有者との争いがあって通常の使い方ができない土地。担保権が設定されている土地。借地権を持つ人の所在が分からない土地も、問題になります。底地の場合は、地代の滞納がある、賃貸借契約がきちんと書面になっていないといった事情があると、国の側で管理しづらいと見られ、認められにくくなります」。
健は、持っている底地を一つずつ点検してみた。すると、問題が次々と見つかった。ある土地は、隣地との境界が一度も確認されておらず、境界標もなかった。別の土地では、借地人が数か月、地代を滞納していた。父の代から続く古い借地は、契約書がなく、口約束のままだった。さらに、ある土地の借地人は、転居先が分からなくなっていた。
税理士は、「このまま申請しても、却下される可能性が高いでしょう」と率直に言った。「物納の申請には、相続税の納期限までという期限があります。そこから逆算して、使える期間のうちに、一つずつ不適格な要素を解消していきましょう」。
健はまず、土地家屋調査士に依頼して、境界の確定測量を行い、隣地の所有者から境界確認書をもらった。地代を滞納していた借地人とは、話し合って、滞納分を分割で支払ってもらうことで合意した。契約書がなかった借地については、借地人と話し合い、現在の契約内容を整理した書面を作成した。地代の支払い状況を確認できる資料も、あわせて整えた。
さらに、所在が分からない借地人がいた土地は、物納の対象から外した。物納に充てる底地は、条件を満たしたものだけに絞り込んだ。足りない分は、延納を組み合わせることにした。
健は、整えた書類とともに、期限内に物納の申請を行った。税務署による審査には、数か月かかったが、整備された境界確認書と契約書、地代の支払状況の資料が評価され、物納に充てた底地は、無事に許可された。もし申請の段階で却下されていても、条件を整えたうえで再申請や、延納への切替をする道が残されていたと、税理士は教えてくれた。
この経験を通じて健は、物納は、現金がなくても使える便利な制度というより、事前の準備がものを言う制度だと学んだ。境界、地代、契約書という地味な点検が、結果を左右するのだと、健は身をもって理解した。物納の許可を得た後、健は、残る底地についても、境界の確認と契約書の整備を、少しずつ進めている。
学びのボックス
| 物納とは | 延納によっても金銭で納めることが難しい場合に、その困難な金額の範囲で、相続した財産そのもので相続税を納める制度。納める財産の価額は原則として相続税の評価額で、売却して現金化できるなら有利な場合もある。 |
| 管理処分不適格財産 | 国が引き取った後に管理や処分に困る財産は物納に充てられない。境界が明らかでない土地、隣地との争いがある土地、担保権が設定されている土地などが典型例。 |
| 底地で問題になりやすい点 | 借地権者の所在が不明な土地のほか、地代の滞納や、賃貸借契約が書面になっていないことなどがあると、国の側で管理しづらいと見られ、認められにくくなる。 |
| 事前準備の進め方 | 相続税の納期限から逆算し、境界の確定測量と境界確認書、地代の滞納の整理、契約内容の書面化、地代の支払状況の資料づくりを進める。条件を満たす底地に絞り込み、不足分は延納を併用する。 |
| 却下された場合の選択肢 | 却下されても、条件を整えたうえでの再申請や、延納への切替の余地が残る場合がある。早めに税理士へ相談する。 |




