ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
「先生、もう二年以上、地代が一円も入ってきていません」
埼玉県内に底地を複数所有する地主・神田清一郎(六十九歳)が弁護士の浜田先生を訪れたのは、冬の初めのことだった。問題の借地人は山田義則という男で、三年前から地代の支払いが滞り、一年前から連絡もつかなくなっていた。
「先月、久しぶりに現地を見に行きました。窓が割れて、庭は草ぼうぼうで、廃墟のようになっていました。近所の人に聞いたら、もう誰も住んでいないと言われました」
清一郎は溜め込んできた怒りと疲労を、一気に吐き出すように話した。
まず、戸籍・住民票を辿る
浜田先生は手順を整理した。「まず山田さんの現在の住所を特定します。住民票の職権調査や弁護士照会を活用して、現住所を確認しましょう。それなしには訴訟に進めません」
調査の結果、山田義則は三年前に別の市に転居していたことが判明した。連絡を避けているだけで、逃げ切れてはいなかった。
浜田先生は山田に内容証明を送り、「地代の滞納を理由に借地契約を解除する」旨を通知した。三ヶ月経っても山田からの反応はなかった。
裁判と「代替執行」
地方裁判所に「建物収去土地明渡請求訴訟」を提起した。山田は公示送達(住所に届かない場合の代替手段)によって手続きが進められ、六ヶ月後、清一郎の全面勝訴判決が出た。
「判決が出ました。次は執行です」と浜田先生は言った。「建物の収去——解体——は山田さんが行うべきことですが、行方をくらませた相手にそれを求めることは現実的ではありません。『代替執行』という手続きを使います」
代替執行とは、債務者(山田)がすべき行為を第三者(解体業者)が代わりに行い、その費用を債権者(清一郎)が立て替え、後から債務者に請求する制度だ(民事執行法一七一条)。
裁判所から代替執行の許可決定が出ると、清一郎は解体業者に発注した。木造一階建て、延べ床三十平方メートルほどの小さな廃屋だったが、廃棄物処理・整地を含めると総費用は百二十万円に達した。
費用は「取り戻せる」とは限らない
「百二十万円は山田さんから回収できますか」と清一郎は尋ねた。
「法律上は回収できます。山田さんの預金口座や給与に対して差押えを申し立てることができます。しかし——」と浜田先生は言葉を選んだ。「山田さんに差し押さえる財産があるかどうかは、調べてみなければわかりません。すでに財産がほとんどない状態であれば、事実上の回収は難しい」
地代の滞納分(約百五十万円)と解体費用(百二十万円)を合計すると、清一郎の損害は二百七十万円を超えていた。口座調査を行ったが、山田の口座残高はわずかだった。
後手に回った教訓
土地は取り戻せた。しかし出ていったお金は戻らなかった。
「連帯保証人を取っておくか、地代保証サービスを利用しておけば、こうはならなかったかもしれません」と浜田先生は言った。「地代が二〜三ヶ月滞納した時点で即座に内容証明を送り、弁護士に相談することが最初の鉄則です。問題が大きくなってからでは、費用と時間だけがかかります」
清一郎は更地になった土地を見ながら、長いため息をついた。土地は戻った。しかしその代償は、金銭だけでなく、三年分の時間でもあった。
【学びのボックス:代替執行と費用回収のポイント】
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借地契約解除と建物収去土地明渡 |
地代の長期滞納が解除原因となった場合、地主は裁判所に「建物収去土地明渡請求訴訟」を提起できる。勝訴判決が出ても、借地人が任意に応じなければ強制執行が必要。 |
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代替執行とは |
建物の収去(解体)は借地人本人しかできない行為ではないため、地主が費用を立て替えて解体業者に発注し、後から借地人に費用を請求する「代替執行」が認められる(民事執行法171条)。 |
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代替執行の費用 |
木造建物の解体費用は規模にもよるが、数十万〜数百万円に及ぶことがある。費用は地主が一時立替え、裁判所の執行決定をもとに借地人に請求するが、回収は困難なケースが多い。 |
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費用回収の手段 |
未払い地代・解体費用は借地人の財産に対して強制執行(預金口座・給与の差押え)できる。しかし夜逃げした借地人の財産把握は困難で、事実上回収できないケースも少なくない。 |
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地主側の予防策 |
地代滞納が2〜3ヶ月続いたら即座に内容証明を送り、弁護士に相談する。連帯保証人を取得しておく・保証会社を利用するなどの事前対策が費用回収の確率を高める。 |




