ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
三者が絡む、奇妙な土地の関係
「自分が借りている土地が、実は又貸しだったなんて」
川島直樹(51歳)が事の複雑さを理解したのは、突然届いた内容証明郵便を読んでからだった。
直樹は十五年前、知人の不動産業者・森田から土地を借り、自費で一戸建てを建てた。毎月、森田に地代を払い続け、家族四人でごく普通に暮らしていた。しかしその土地の本当の所有者は、森田ではなかった。
土地の真の地主は、大和商事という不動産会社だった。大和商事が森田に土地を貸し(借地契約)、森田がさらに直樹に貸していた(転借地)。直樹は「転借人」つまり、権利の連鎖の末端に位置する立場だったのだ。
内容証明の差出人は大和商事。内容はこうだった。「借地人・森田との借地契約を解除しました。つきましては、土地の明け渡しをお願いします」
「私は関係ない」は通用するのか
直樹はすぐに弁護士の佐伯に相談した。「私は森田さんとの契約に従って地代を払ってきた。大和商事との間には何の契約もない。それでも出て行かなければならないのですか」
佐伯弁護士の答えは、直樹が望んでいたものではなかった。
「民法の原則で言えば、BとAの契約が消滅すると、CのBに対する転借地権も消滅します。これを権利の附従性といいます。Aとの直接の契約がないCは、Aに対して土地の使用を主張し続けることが原則としてできない」
「では、家を建てて十五年間住んできた私は、ただ追い出されるだけですか」
「そうとも言い切れません。ここに借地借家法の保護が入ってくるのです」
法律が用意した「救済の回路」
借地借家法は、借地人が転貸を地主に承諾させて成立した適法な転借地の場合、転借人を一定程度保護する仕組みを設けている。
具体的には、地主Aが借地人Bの地代滞納を理由に契約解除しようとする場合、AはあらかじめCに対して「Bが地代を払っていないこと」を通知し、CがAに直接地代を支払う機会を与えなければならないと解されている。
直樹のケースで言えば、大和商事が森田の滞納を理由に直接解除を通知してきたことが問題だった。「CであるあなたへのAからの事前通知はありましたか?」と佐伯弁護士が確認すると、直樹には何の連絡もなかった。
「その場合、解除の手続きに瑕疵がある可能性があります。あなたには、大和商事に対して直接地代を支払う意思があることを申し出て、明け渡し請求に異議を唱える余地があります」
地代を直接払う、という選択
直樹は佐伯弁護士とともに大和商事に連絡を取り、「転借人として地代を直接支払う意向がある」と申し出た。大和商事の担当者は当初強硬な姿勢を崩さなかったが、法的手続きに入れば長期化することを踏まえ、最終的に交渉の場が設けられた。
「森田さんが滞納していた地代を清算したうえで、今後はあなたと直接の借地契約を結ぶことを検討します」
これは直樹にとって想定外の展開だった。A(大和商事)とC(直樹)の間に新たな借地契約が結ばれることで、Bを介さない直接の権利関係が生まれる。転借地権という不安定な立場から、正式な借地人へと昇格する形だ。
交渉は三か月に及んだが、直樹は家を失わずに済んだ。
権利の連鎖は、末端から壊れる
後日、佐伯弁護士は直樹にこう話した。
「転借地権は、借地権の上に乗っかった権利です。根元が切れれば、上の権利も揺らぐ。それが民法の原則。だからこそ、転借人は地主との関係を自分でも把握しておく必要がある。Bだけを信頼していては、危ない」
直樹は今、新しい借地契約書を手元に置きながら思う。土地の権利は複層的だ。自分がどの層にいるのかを知っていれば、万一の時に対処できる。
転借地権——又貸しされた土地の上に立つとき、その脆さを知ることが、最大の自衛になる。
【学びのボックス】
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ポイント |
内容 |
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転借地権とは |
借地人(B)が地主(A)の承諾を得て、第三者(C)にさらに土地を貸す場合に生じる権利。CをBに従属した転借人という |
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民法の原則 |
BとAの契約が解除されると、CのBに対する権利(転借地権)も消滅するのが原則(附従性) |
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借地借家法の保護 |
Bの地代滞納によりAがBを解除する場合、AはCに通知してCに地代を直接払わせる機会を与えなければならない(借地借家法11条類推等) |
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Cが取れる対抗手段 |
①Aへの地代直払いの申し出 ②建物買取請求権の行使(正当な立退理由がない場合) ③Aとの新借地契約締結交渉 |
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地主Aの留意点 |
転貸を承諾した時点でCへの対応義務が生じる。転借人の存在を把握したうえで契約・管理を行うことが重要 |




