『建物の建て替え』に伴う地代増額の交渉!承諾料と地代改定のセット提案
木下達郎は、築五十年を超える木造の自宅に、借地人として暮らしている。土地の地主は、先代から代替わりした西川久美子さんだ。柱の傾きや雨漏りがひどくなり、耐震面の不安も大きくなったため、達郎は建物を建て替えることを決意した。借地契約には、増改築や建替えのときは地主の承諾を得るという条項がある。まずは誠意を伝えるのが先だと考え、達郎は手土産を持って、久美子さんのもとを訪ねた。
久美子さんは、事情を聞いて、建替えそのものには理解を示した。しかし、続けてこう切り出した。「承諾する代わりに、二つ、お願いしたいことがあります。一つは増改築承諾料。もう一つは、地代の見直しです」。月額二万円の地代は、三十年以上ほとんど変わっておらず、周辺の相場からはかなり低い水準になっていた。固定資産税の負担も増えている。達郎は、突然の提案に戸惑い、返事を保留して帰ってきた。長年の付き合いがあるだけに、要求を突きつけられたように感じて、その夜はなかなか寝つけなかった。
達郎は、不動産に詳しい司法書士に相談した。司法書士は、地主の主張には根拠があると説明した。「建替えの承諾料は、更地価格の三パーセント前後を目安に話し合われることが多いようです。地代についても、借地借家法に、公租公課や近隣相場の変動に応じて増減を請求できる規定があります」。ただし、金額は一律ではなく、双方が納得できる水準を探るのが大切だとも言われた。
そこで達郎は、不動産会社に依頼して、土地の更地価格と周辺の地代相場を調べてもらった。更地価格は約四千万円、相場の地代は月額三万五千円前後とのことだった。承諾料を三パーセントで計算すると百二十万円になる。達郎は、気持ちを落ち着けて、感情的にならず、調べた資料を持って、もう一度久美子さんと向き合うことにした。
話し合いは、お互いの立場を尊重する形で進んだ。達郎は、承諾料として百二十万円を支払うこと、地代は相場に合わせて引き上げることを受け入れた。そのかわり、一度に相場まで上げるのではなく、月額二万円から三万円へ段階的に改定してほしいと頼んだ。久美子さんも、地代の負担が重いことを正直に伝える達郎に好感を持ったようだった。長年きちんと地代を払い続けてくれた達郎の姿勢を評価し、それを了承した。
合意内容は、書面にして残すことにした。まず、建替えの承諾書には、建て替える建物の構造・規模・用途、工事の時期、承諾料の額と支払日、借地契約のその他の条件が変わらないことを明記した。建替えを機に、契約内容があいまいにならないようにするためだ。さらに、地代の改定覚書には、改定後の地代額、適用開始の時期、今後の見直しの方法、支払方法を記した。数年後に再び地代を見直す場合の協議の進め方も、あらかじめ書き添えておいた。書面の作成にあたり、司法書士は双方の言い分が食い違う余地がないか、一文ずつ確認してくれた。
半年後、新しい家が完成すると、達郎は建物の登記も済ませた。久美子さんからは「これからも長くよろしくお願いします」と言葉をかけられた。口約束ではなく、承諾書と覚書という形にしたことで、代替わりがあっても安心して暮らせると、達郎は感じている。工事中の仮住まいの手配や、近隣へのあいさつにも、久美子さんが気を配ってくれたことも、心強かった。建替えは、単なる工事の話ではなく、地主と借地人が条件を見直し、関係を結び直す機会になるのだと、達郎は今では思っている。
学びのボックス
| 建替え承諾が必要な理由 | 借地契約に増改築・建替えに地主の承諾を要する特約があれば、無断で建て替えると契約違反を問われるおそれがある。 |
| 増改築承諾料の目安 | 更地価格の3%前後を目安に協議されることが多い。金額は一律ではなく、個別の事情を踏まえて合意する。 |
| 地代改定の根拠 | 借地借家法11条により、公租公課の変動や近隣相場に照らして地代が不相当になった場合は、増減額を請求できる。 |
| 段階的な引上げ | 一度に相場まで上げず、数年かけて段階的に改定する方法は、借地人の負担を抑えつつ合意しやすい。 |
| 承諾書と覚書 | 承諾書には建物の概要・工事時期・承諾料を、覚書には地代額・適用時期・今後の見直し方法を明記し、書面で残す。 |




