『借地権付き分譲マンション』修繕積立金と地代の一括集金トラブル
山口恭子は、亡くなった父から、都内の約千平方メートルの土地を相続した。その土地の上には、四十戸の分譲マンションが建っている。土地は恭子の所有で、マンションの各部屋の所有者は、それぞれ借地権を準共有している。地代は、管理組合が各戸から管理費などと一緒に集め、一括して恭子に支払う仕組みだった。毎月きちんと振り込まれるため、恭子は手のかからない資産だと思っていた。マンションの住民と顔を合わせることもなく、地代の話は管理組合の理事長に任せきりにしていた。
ところが、あるときから地代の入金額が足りなくなった。管理組合の理事長から届いた連絡によれば、二階の一室の所有者が、一年以上、地代分の負担金を滞納しているという。所有者は連絡が取れず、行方が分からない。組合は、不足分を払えない状態が続いていると、申し訳なさそうに説明した。滞納額は、地代全体から見ればわずかな割合だったが、毎月の不足が積み重なっていた。
恭子は不安になった。他の三十九戸は、きちんと払っている。それでも、地代が満額入らない状態が続けば、契約違反を理由に、借地契約を解除できるのではないか。解除すれば、建物の収去を求めることもできるかもしれない。そこまで考えて、恭子は、住民の生活に関わる重大な話でもあることに気づき、慎重に動くべきだと思い直して、弁護士に相談することにした。
弁護士は、落ち着いた口調で整理して説明した。「借地権は、区分所有者全員が準共有しています。借地契約を解除するには、原則として、賃借人である区分所有者全員に対して、催告と解除の意思表示をする必要があります。一部の部屋の滞納だけで、マンション全体を解除するのは、現実的ではありません」。さらに弁護士は続けた。「裁判では、信頼関係が破壊されたかどうかが問われます。ほぼ全員が払っている中で、一戸の滞納を理由に全体を解除するのは、認められにくいでしょう」。
弁護士は、解除ではなく、不足分を確実に回収する方法を勧めた。まず、管理組合に対して、不足している地代の支払いを求める。組合は、規約にもとづいて、滞納者に督促できる。管理費などを規約で徴収している場合には、区分所有法の先取特権など、回収のための手段もあるという。また、他の所有者や組合が、滞納者に代わって地代を立て替える方法もあり、立て替えれば契約を維持できる。
恭子は、弁護士の助言を携えて、理事長と面談した。理事長は、臨時総会を開いて、滞納分を管理組合の修繕積立金などから一時的に立て替え、地主へ支払うことを提案した。その後で、組合が滞納者に請求し、必要なら法的手続きも検討するという。理事長は、住民への説明も責任を持って行うと約束してくれた。恭子は、不足分が支払われれば、解除の通告はしないと約束した。話し合いの内容は、覚書にまとめた。
覚書には、滞納が生じた場合の連絡体制、組合が立て替える手順、地主が受け取る期限を定めた。恭子は、地代の入金状況を、毎月管理組合から報告してもらうことにした。数か月後、組合の立替えが完了し、地代は滞りなく入金されるようになった。
恭子は、借地権付き分譲マンションでは、一部の滞納がすぐに全体の問題になるわけではなく、準共有の仕組みを理解した対応が必要だと知った。組合と日ごろから連絡を取り、滞納に備えた約束を決めておくことが、地主にとっても住民にとっても、安心につながるのだと、恭子は今では思っている。
学びのボックス
| 借地権付き分譲マンション | 土地は地主が所有し、区分所有者が借地権(敷地利用権)を準共有する形態。地代は管理組合が一括して集めて支払うことが多い。 |
| 解除の相手方 | 賃貸借契約の解除は、賃借人が複数の場合は全員に対して意思表示を行うのが原則。一部の部屋の滞納だけで全体を解除するのは現実的でない。 |
| 信頼関係破壊の法理 | 地代の滞納があっても、信頼関係が破壊されたといえない場合は解除が認められない。ほとんどの所有者が払っている場合は特に慎重に判断される。 |
| 滞納分の回収方法 | 管理組合を通じた督促のほか、規約にもとづく徴収では区分所有法の先取特権など回収手段がある。他の所有者や組合による立替払いも可能。 |
| 地主の備え | 管理組合との間で、滞納時の連絡体制・立替えの手順・入金期限を覚書で定め、地代の入金状況を定期的に報告してもらう。 |




