『特定空家』に指定された借地上の建物!地主に迫る固定資産税6倍の恐怖
藤原信也は、父から相続した百五十平方メートルの土地を、四十年前から借地人の宮本さんに貸している。地代は決して高くはないが、毎年の固定資産税を払っても、わずかな収入が残る程度だった。宮本さんが高齢で亡くなり、建物は空き家になった。相続人の息子は遠方に住んでおり、年に一度、様子を見に来る程度のようだった。
ある日、市役所の担当課から信也に電話が入った。「借地上の空き家が、倒壊のおそれがあるとして、特定空家に該当するか調査しています」。屋根瓦は一部が崩れ、雑草が庭を覆い、外壁も大きく傷んでいるという。信也は、建物の所有者は借地人側だから、自分には関係のない話だと思っていた。ところが、市の担当者の説明で、そうとは言えないことを知った。
「特定空家に対して、市が改善を求める勧告をすると、その敷地は住宅用地の特例の対象から外れます。小規模な住宅用地であれば、固定資産税は最大で六分の一に軽減されていますが、その軽減がなくなります。法改正で、特定空家になる手前の管理不全空家の段階でも、勧告を受ければ同じ扱いになります」。固定資産税の納税義務者は、土地の所有者である信也だ。計算してみると、年間約八万円の税額が、およそ六倍の四十八万円前後に膨らむ可能性があった。信也は愕然とした。長年、手間もかけずに安定した地代を受け取ってきたつもりだったが、思わぬ落とし穴があったのだ。
信也は弁護士に相談した。弁護士は、まず建物の所有者である宮本さんの相続人に、建物を適切に管理するよう求めることを勧めた。「空家法は、建物の所有者に管理の責任を課しています。地主さんが勝手に取り壊すことはできません。借地権者の建物を無断で解体すれば、かえって損害賠償を請求されるおそれがあります」。信也は、現地の写真も添えて、内容証明郵便で、相続人に管理を求める通知を送った。
相続人からは、数日後に連絡が来た。電話口の声は、申し訳なさそうだった。「恥ずかしい話ですが、手が回らなくて。地代も、ずっと滞っていました」。調べると、地代は一年以上滞納されていた。弁護士は、「地代の滞納があるのであれば、催告をしたうえで契約を解除し、建物の収去と土地の明渡しを求める道も開けます。ただし、放置しているだけで直ちに解除が認められるとは限りません。まずは話し合いが現実的です」と助言した。
信也は、相続人と何度も顔を合わせて話し合った。責めるのではなく、お互いの事情を聞くことから始めた。相続人は、遠方で管理できないこと、建物には資産価値がほとんどないことを正直に打ち明けた。そこで、滞納した地代の精算と、借地契約の合意解約、建物の解体を条件にまとめることにした。解体費用の負担については、双方の事情を考え、協議して取り決めた。合意書は弁護士に作成してもらい、相続人にも内容を丁寧に説明したうえで署名をもらった。合意書には、解体の期限と、更地での返還を明記した。
半年ほどで、建物は解体され、土地は更地で返還された。市からの勧告を受ける前に、問題が片づいたのだった。信也は、住宅の敷地に建物が建っていることで固定資産税が軽くなっていた事実を、あらためて思い知った。借地上の建物が放置されれば、不利益を被るのは地主にもおよぶ。日ごろから借地人の状況を気にかけ、空き家になったときは早めに動くことが大切だと、信也は今では思っている。
学びのボックス
| 特定空家と住宅用地特例 | 特定空家に対して市町村が勧告を行うと、その敷地は住宅用地の特例(固定資産税が最大6分の1など)の対象から外れ、税負担が重くなる。 |
| 課税されるのは地主 | 固定資産税の納税義務者は土地の所有者。借地上の建物が原因で勧告を受けても、増えた土地の税負担は地主にかかる。 |
| 空家法の責任の所在 | 建物の管理責任は建物の所有者(借地人またはその相続人)にある。地主が借地人の建物を勝手に解体することはできない。 |
| 契約解除の注意点 | 地代滞納などがあれば催告のうえ解除を検討できるが、放置だけで直ちに解除が認められるとは限らない。まず話し合いが現実的。 |
| 合意解約と書面 | 地代の精算・合意解約・建物の解体と更地返還を合意書にまとめ、解体の期限と費用負担を明記しておくとよい。 |




