ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
川島隆司(58歳)が父親の後を継いで地主になったのは、三年前のことだった。父の代から借地人の西山さん一家に土地を貸しており、もう四十年以上の付き合いになる。
西山さんの父・正雄さん(故人)と川島の父は、同じ町内会の仲間だった。「長屋みたいなもんだ」と父はよく言っていた。地代の受け渡しは毎月、西山さんが封筒を持って玄関に来る——そんな昔ながらのやり取りが続いていた。
世代が変わった今、川島は改めて「底地」と「借地権」という言葉の意味を整理したくなり、専門家に相談することにした。
「川島さんが持っているのは『底地』です。土地の所有権はありますが、西山さんが『借地権』を持っており、その土地の上に建物を建てて使う権利があります。地代はその土地の使用料にあたります」
「所有者なのに、土地を自由に使えないということですか」
「そうです。底地の所有者は、借地契約が続く限り、土地を自由に売ったり建物を建てたりすることができません。一方で借地人は、契約の範囲内で土地を使い続ける権利があります。この二つの権利が一つの土地の上に重なっている状態が、底地・借地権の関係です」
「では、どちらの権利が強いんですか」
「どちらが強いというより、それぞれが独立した権利として守られています。ただ、借地借家法のもとでは、借地人の権利は手厚く保護されています。地主側から一方的に契約を解除することは非常に難しく、正当な理由がなければ更新拒絶も認められません。反対に、借地人は地代を払い続ける義務があり、無断で建物を改築・転貸することも地主の承諾なしにはできません。お互いに権利と義務がある、持ちつ持たれつの関係です」
「地代の相場はどう決まるんですか」
「一般的には、その土地の固定資産税の三倍から五倍程度が一つの目安とされています。ただ、長く続く契約では地代が据え置かれていることも多く、現在の相場と大きくかけ離れているケースもあります。地代が著しく不相当になった場合は、地主・借地人どちらからでも増減額の請求ができる制度があります」
川島は、父が西山さん一家と築いてきた関係の意味を、改めて感じた。法律の話というより、人と人との信頼の話だと思った。
「西山さんとの契約書を一度確認したいのですが」と川島は言った。
「ぜひ確認してください。特に契約の種類——旧借地法か現行の借地借家法か——によって、存続期間や更新のルールが大きく異なります。古い契約書の場合、旧借地法が適用されることが多く、借地人の権利がより強く守られています」
自宅に戻り、川島は父が残した書類の束から古い契約書を探し出した。日付は昭和五十一年。旧借地法が適用される契約だった。
西山さん一家がこれほど長く住み続けられたのは、法律の保護があったからでもあり、父と正雄さんが誠実に関係を築いてきたからでもある。川島はそれを受け継いでいく責任を、静かに感じた。
【この記事で学べること】
底地とは借地権が設定された土地のことで、地主は所有権を持ちながらも土地を自由に使えません。借地人は借地借家法で強く保護されており、地主からの一方的な契約解除は原則として認められません。地代の目安は固定資産税の3~5倍程度です。




