住人3世帯が残る昭和アパート、借地権はどう「売れる」形に変わったか
――立ち退き交渉と補償金支払いで実現したクリーンな借地権売却
底地オーナーの息子として実家の借地権付きアパートを相続した宮本拓也は、頭を抱えていた。築五十年を超える木造二階建てのアパートには、まだ三世帯の高齢入居者が住み続けており、建物自体は傾き、雨漏りも常態化していた。「早く売って現金化したい」と不動産業者に相談しても、返ってくる答えはいつも同じだった。「入居者がいる限り、まともな価格では売れません。買い手がつかないんです」
拓也は自力で入居者に立ち退きを打診してみたが、うまくいかなかった。「長年住んでるんだ、いきなり出て行けと言われても困る」「次の住まいのあてもない年金暮らしだ」と言われるたびに、拓也は言葉に詰まった。感情的な押し問答が続き、逆に不信感を募らせてしまい、話し合いは完全に暗礁に乗り上げた。中には「補償金なんて出せないくせに出て行けと言うのか」と怒りをあらわにする住人もおり、顔を合わせるたびに空気が張り詰めていった。半年が過ぎても状況は何一つ変わらず、固定資産税と地代だけが毎月出ていく一方だった。
専門業者への相談で見えた突破口
知人の紹介で、立ち退き交渉と借地権売却を専門に扱うコンサルティング会社に相談したのは、そんな折だった。担当者は開口一番にこう言った。「オーナー様ご本人が直接交渉するのは、実は一番うまくいかないケースが多いんです。感情的な対立になりやすく、金額面でも落としどころが見えなくなる。ここは我々のような第三者を間に立てるべきです」拓也は半信半疑だったが、これ以上一人で抱え込んでも状況は変わらないと感じ、正式に依頼することにした。
業者はまず入居者一人ひとりの生活状況を丁寧にヒアリングし、それぞれに合った移転先候補と、妥当な補償金の水準を個別に提示していった。長年住んだ愛着への配慮、引っ越し費用、新居の礼金・敷金相当額まで含めた具体的な補償プランを示すことで、感情論ではなく現実的な選択肢として検討してもらえる下地を作ったのだ。拓也は「ここまで丁寧にやるものなのか」と驚いた。
交渉開始から四か月後、最初の一世帯が転居に合意した。担当者は転居先の内見に同行し、契約手続きや引っ越し業者の手配まで一貫してサポートしたという。残る二世帯も、実際に移転した住人が新しい住まいで快適に暮らしている様子を知ると態度を軟化させ、最終的には全世帯が合意書に署名するに至った。補償金の総額は当初拓也が想定していたよりも大きな出費となったが、業者は「この金額は借地権を更地に近い状態で売却できる価値と比べれば、十分に見合う投資です」と説明した。
クリーンな借地権としての売却へ
全世帯の退去と老朽建物の解体が完了すると、地主の承諾を得たうえで借地権は「入居者なし・更地渡し可能」という好条件で市場に出された。空室リスクや立ち退き交渉の手間を敬遠していた買い手候補が一斉に関心を示し、複数の業者から問い合わせが相次いだ結果、当初の査定額を上回る価格で契約が成立した。拓也は「業者に依頼していなければ、今でもあの傾いたアパートを抱えたまま身動きが取れなかったと思う。専門家を間に入れる費用は、決して安くはなかったが、結果として一番の近道だった」と振り返る。
老朽化した借地上建物に入居者が残っている状態は、多くの底地・借地権所有者を悩ませる典型的な問題だ。しかし専門業者による丁寧な交渉と適正な補償の設計があれば、感情的な対立を避けながら、資産価値を最大限引き出す形での売却が実現できる。焦って安値で買い叩かれるより、時間と費用をかけてでもクリーンな状態を整える方が、結果的に手元に残る金額は大きくなることも少なくない。宮本家の事例は、その道筋を静かに示していた。
学びのボックス
| 項目 | 内容 |
| 入居者付き借地権が売れにくい理由 | 立ち退きリスクや空室化の手間を買い手が敬遠するため、入居者がいる借地権は市場価格が大きく下がりやすい。 |
| オーナー自身の直接交渉のリスク | 感情的な対立になりやすく、金額の落としどころが見えないまま交渉が長期化するケースが多い。 |
| 専門業者を介するメリット | 第三者として個別の生活状況をヒアリングし、移転先や補償金額を具体的に提示することで合意形成を進めやすくする。 |
| 補償金の考え方 | 引っ越し費用や新居の礼金・敷金相当額を含めた現実的な補償設計が、円滑な立ち退き合意の鍵になる。 |
| クリーンな借地権売却の効果 | 入居者なし・更地渡し可能な状態にすることで買い手候補が広がり、査定額を上回る売却価格につながることがある。 |




