ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
「地主が変わった。新しい地主は投資会社だ」
横浜市郊外で四十年近く借地に自宅を構えてきた篠原康夫(六十二歳)がその知らせを受けたのは、梅雨入り直前の六月だった。旧地主の田村家から一通の書留が届き、「底地を株式会社ランドアセット(以下、ランド社)に売却した」と事務的に告げていた。
署名捺印も、挨拶も、ましてや事前の相談などひとつもなかった。
■ 寝耳に水の「底地売却」
康夫はすぐに知人の司法書士・渡辺先生に電話した。
「先生、こんなこと許されるんですか。四十年も借りてきたのに、急に別の会社に売り飛ばすなんて……」
渡辺先生の答えは簡潔だった。
「法律上、底地の売却に借地人の承諾は必要ありません。地主は自分の所有物を自由に売れます。事前通知の義務もないんです」
康夫は絶句した。しかし先生は続けた。「ただ、篠原さんの借地権はきちんと守られています。建物の登記がされていれば、新しい地主にも借地権を対抗できますよ」
■ 新地主からの「第一の手紙」
それから二週間後、ランド社から封書が届いた。中には一枚の書類。要旨はこうだ。
「現行地代は近隣相場を大幅に下回っているため、来月より月額を現行の二・五倍に改定する。応じない場合は土地明渡し交渉に移行する」
康夫の手が震えた。「土地明渡し」という四文字が頭から離れない。
しかし渡辺先生は落ち着いていた。「地代の増額は一方的に決められるものではありません。双方合意が原則です。不当と思えば従う必要はない」
■ 「供託」という盾
「では地代はどうすれば?払わないと契約解除されませんか」
「供託という方法があります。法務局に地代相当額を預けておけば、支払い義務を果たしたことになります。債務不履行にはなりません」
渡辺先生の助けを借りて、康夫は翌月から従来の地代額を法務局へ供託し始めた。ランド社への地代支払いは止め、代わりに供託済みの証明書を保管した。
ランド社の担当者は何度か電話をかけてきたが、「弁護士を通じてください」の一言で話を打ち切った。
■ 借地権は四十年の積み重ねだ
三ヶ月後、ランド社は弁護士を立てて地代増額調停を申し立ててきた。康夫もすぐに不動産専門の弁護士を選任し、近隣の地代相場データを集めて反論を準備した。
調停は半年かかったが、最終的に増額幅は当初要求の四分の一以下に収まった。
「四十年分の借地権は、そう簡単には揺らがない」と弁護士は言った。「法律は借地人を守るためにある。ただし、自分から行動しなければ守ってもらえません」
康夫はその言葉を手帳に書き留めた。底地が誰の手に渡ろうとも、正当な権利を持つ借地人は、正しい知識と行動さえあれば負けない。
【学びのボックス】底地売却と借地人の権利
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底地売却に承諾は不要 |
地主は借地人の承諾なしに底地を第三者へ売却できる。借地人への事前通知義務もない。 |
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借地権は新地主にも対抗可 |
建物登記がされていれば、借地人は新しい地主に対しても借地権を主張できる(借地借家法第10条)。 |
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地代増額請求への対抗策 |
不当な地代値上げには応じる義務はない。従来の地代を供託(法務局へ預託)しておけば債務不履行にならない。 |
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土地の使用妨害への対処 |
正当な権原のない請求・嫌がらせは不法行為。弁護士への相談・内容証明郵便での抗議が有効。 |
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専門家への早期相談 |
新地主から不当な要求を受けたら、借地・不動産に詳しい弁護士や司法書士に早めに相談する。 |




