遺産分割や登記など、相続に関する法律の一部が改正され、2023年4月から施行されました。
親族間での遺産相続争いが長期化し、遺産分割方法などがまとまらずにいると今後は困った事態になります。相続にあたっては早期に問題点を洗い出し、合意に導く努力が求められます。
- 遺産分割協議は10年が限度に
- 個人の不要土地の国庫帰属法
- 土地・建物相続登記の義務化
- 相続人申告登記制度
遺産分割協議は10年が期限
遺産分割に関する協議がなかなかまとまらず、相続の詳細が確定しないため、登記業務などができないことは、これまで多々ありました。
分割協議の継続中であれば、登記手続きをせずに済んでいました。分割協議中にその対象者が亡くなったために、新たな相続人が生まれ、さらに収拾がつかなくなる事態も生じていました。
特に土地評価額の低い地方では、長期間にわたり分割協議がまとまらず、相続人が亡くなるケースも多くありました。こうした事態を防ぐために、民法・不動産登記法などの関連法規がすでに改正され、2023年4月から順を追って施行されます。
その中で、まず「遺産相続の分割協議期間は10年が限度」の運用が、2023年4月から始まりました。10年を経過しても遺産分割の話がまとまらない場合は、「法定相続分による相続」になります。
加えて、今までは相続開始後何年が経過しても、「特別受益」や「寄与分」を考慮した遺産分割ができておりました。
特別受益、寄与分とは、以下のようなものです。
特別受益
特定の相続人が被相続人から生前贈与や遺贈などを受けて得た利益のことをいいます。
特別受益のある相続人がいる場合、特別受益の持戻し計算を行なって、みなし相続財産とし、当該相続人の相続分を減らすことができます。
寄与分
特定の相続人が相続財産の増加や維持に対して特別の貢献をした場合に認められる多めの遺産取得割合のことをいいます。
たとえば、被相続人を献身的に介護した場合などに、寄与分が認められることがあります。
法改正後、相続開始後10年が経過すると「特別受益の持戻し計算」や「寄与分」の主張ができなくなります。基本的に、法定相続分で遺産分割しなければなりません。
改正法の施行後は、特別受益や寄与分の主張をしたい方は、相続開始後10年以内に遺産分割をしないと不利益を受ける可能性があります。
特に法定相続以外の方法を希望する方にとっては、急ぐ必要があります。さらに今回の法改正での留意点は、法律の施行前の遺産分割協議案件でも、この法律の対象となる点です。
これまでの法律でしたら、施行前の案件は対象外となることが通例でしたが、今回は猶予期間はありながらも、施行前の遺産分割協議案件にもこの法律が適用されます。そのため、10年以上が経過し、現在でもまとまっていない案件は、施行後5年の猶予期間2028年3月までには、分割方法を確定しなければなりません。
個人の不要土地の国庫帰属法です。
今回の改正では、これまで土地の相続を望まず、そのまま放置してきた人に対して、一定条件を満たせば、国がその土地の引き取りができるよう制度化しました。
これまでは、資産価値が乏しい土地の登記をすると、固定資産税などの税金を取られるだけでメリットがないと感じ、登記はもちろん相続さえも消極的な人が存在したことも事実です。
こうした事態は、所有者不明の土地の増加を招き好ましくないため、相続登記の義務化に合わせて不要な土地を国に譲渡できる制度「相続土地国庫帰属法」を制定しました。2023年4月から施行され、相続を望まない土地所有者に対して、国が所有者から土地を無償で引き取り、公共用地などに転用できるようになりました。
これまでは、国が無償で引き取ることに関しては、法的根拠がありませんでした。利用可能な土地は、市区町村などの地方自治体が寄贈を受け、公園などに整備する方式が採用されてきました。
この法律により、国が引き取ることは可能なりますが、すべての土地が該当するわけではありません。相続登記を済ませ土地の所有者が誰かを明確にした上で、国が定める厳しい条件をクリアし、その管理に要する10年分の費用を納付すれば、親から相続した不要な土地を国側に引き取ってもらうことができるようになります。
実際にこの国庫帰属法の恩恵を受けるためには、高額な取り壊し費用を支払って、土地を更地にする必要があり、管理費用として納めるお金や、その他の条件もなかなか厳しいものです。
土地・建物相続登記の義務化
「登記の義務化」が今回の法改正で一番の焦点であり国が最も力を入れている点です。
近年、問題となっている所有者不明土地問題(所有者が不明な土地・所有者が判明していてもその所在が不明な土地)の解決を目的として、民法等の改正とともに行われました。
今まで、土地などを相続したとしても、登記する義務はありませんでした。
そのため、人口減少が進む地域などでは土地の登記が進まずに、所有者不明の土地が急増しました。所有者不明土地は、今や国土の20%以上(2017年国土交通省調査)といわれておりなんとほぼ九州全体と同じ面積の土地が、所有者不明の土地になってしまっているのです。
こうした事態に国も危機感をもち、今回「不動産登記法」を改正し、相続開始から3年以内に、誰がどれだけの土地・建物を相続したかの登記を義務づけました。この施行は2024年4月からですが、施行後の猶予期間が3年しかありません。
①相続や遺贈により不動産を取得した場合、相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない。
②遺産分割が成立した場合には遺産分割の日から3年以内にその内容を踏まえた登記申請をしなければならない。
制度が開始以前に家族から不動産を相続し、その上でまだ登記を行っていないという方についても、制度施行日から3年以内に登記を行わない場合には、罰則規定が適用されることになります。)相続登記申請義務について正当な理由がないのに申告を怠ったときは、10万円以下の過料となります。)そのため、現在係争中の分割協議を長引かせることも難しくなります。
固定資産税の徴収についても、登記の情報を前提に行われるため、所有者不明の土地の増加は問題を深刻化させています。土地所有者の間でも、登記をしている人と登記をしていない人との不公平感も生まれており、未登記ではあるが所有者が確定している不動産に対して、国は調査を強化し登記を促す姿勢を強めています。
2024年4月1日施行
相続人申告登記制度
決められた期間内に相続登記ができない場合に、「相続人申告登記登録制度」というあらたな仕組みがもうけられました。この制度も、2024年4月から施行されます。
誰がどの不動産を相続するのか、その具体的な相続内容が決まっていないゆえに登記ができない際に、この制度を活用できます。ここで登録された方が、将来の相続人であることを確定する狙いがあります。
具体的な手続きは
①登記簿上の所有者について相続が開始したこと
②自らがその相続人であること
上記について法務局の登記官に申出ることで、相続登記の申請義務を履行することができるようになります。
この申出がされると、申出をした相続人の氏名、住所等が登記されますが、不動産の取得持分の割合は登記されません。
一人の相続人が相続人全員分をまとめて申出することも可能です。
相続による権利を取得したことまでは登記されませんので、相続人申告登記とは、3年以内に相続登記を申請しなければならない義務を「履行」するための、報告的な登記です。これを行うことで、相続の開始から3年を経過して後でも、過料の対象にはなりません。
その後、分割協議がまとまり、具体的な所有権を取得した際に、その分割の日から3年以内に相続登記(所有権の移転登記)をしなければなりません。