『借地上のアパートのサブリース』地主・借地人・一括借り上げ会社の三つ巴
田所正彦が貸している土地では、借地人の高木さんが賃貸アパートを建てて経営していた。田所は父から土地を相続した地主で、高木さんとは先代からの付き合いだった。高木さんは、建物を管理会社に一括して貸し、管理会社が入居者に転貸する、いわゆるサブリースの仕組みを使っていた。空室の心配をせずに済むため、高木さんは毎月、安定して地代を払ってくれていた。
ところが十年ほど経ったころ、地代の入金が三か月続けて途絶えた。田所は督促の連絡を入れ、高木さんから事情を聞いた。「実は、サブリース会社から、周辺の家賃相場が下がったという理由で、賃料を大きく減らしたいと言われているんです。収入が減って、地代の支払いが苦しくなりました」。田所は驚いた。アパートの経営が、地代の支払いに直結していたのだ。
田所は弁護士に相談し、三者の関係を整理してもらった。「地主さんと土地の契約を結んでいるのは借地人の高木さんです。サブリース会社は、高木さんから建物を借りている立場で、地主さんとは直接の契約関係がありません。ですから、地代の請求先はあくまで高木さんになります」。弁護士はそう説明した。
「一方で、サブリース会社の賃料減額の要請は、高木さんが無条件に受け入れなければならないものではありません。サブリース契約にも、借地借家法の賃料の増減額請求の規定が適用されるとされており、賃料が保証されていても、近隣の相場や経済事情などを踏まえて、双方が増額や減額を求めることができます。減額が相当かどうかは、周辺の賃料相場、契約を結んだ経緯、建物の状態などを総合的に見て判断されます」。
「ただ、このまま地代の滞納が続けば、地主さんは、信頼関係が破壊されたとして、借地契約の解除を主張することもできます。しかし解除すれば、アパートは建物ごと宙に浮き、入居者にもサブリース会社にも、地主さんにも不利益が及びます」。田所は、誰か一人が勝って終わる問題ではないと感じた。
弁護士は、三者で話し合う場を設けることを勧めた。田所は高木さん、サブリース会社の担当者を招き、協議を行った。高木さんは、減額幅の根拠を示すようサブリース会社に求めた。サブリース会社も、入居率の低下や修繕費の増加といった自社の事情を率直に説明した。そのうえで、近隣の相場資料を示したが、高木さんの建物の状態が良いことや、これまでの賃料の経緯も踏まえ、減額幅をいくらか圧縮する方向で、歩み寄りを見せた。
話し合いの末、三者は、それぞれが少しずつ譲る形で合意した。サブリース会社は、当初要請した減額を圧縮する。高木さんは、地代の支払いが確実になるよう、サブリース会社から支払われる賃料の一部を、地主へ直接支払ってもらうことに同意する。田所は、滞納していた地代の分割払いに応じ、遅延損害金の一部を免除したうえで、契約を解除しない。
合意の内容は、三者連名の書面にまとめられた。賃料の見直し時期や、減額を再び求める場合の手順も、あらかじめ取り決めた。直接支払いの仕組みが動き出すと、地代は滞りなく入るようになり、滞納分も、予定どおり分割で返済された。
この経験を通じて田所は、借地の上のサブリースでは、地主、借地人、サブリース会社の三者の利害が結びついていることを学んだ。誰か一人が得をするより、各自が少しずつ譲る形で、全体を維持する解決を探る大切さを、田所は身をもって理解した。以来、田所は年に一度、高木さんと賃料の状況を確認し合う機会を持つようにしている。高木さんは、滞納の心配が解消された後、老朽化していたアパートの共用部分の修繕を進め、入居率も少しずつ回復してきたという。
学びのボックス
| 三者の契約関係 | 土地の契約は地主と借地人(アパートの所有者)の間にあり、サブリース会社は借地人から建物を借りる立場で、地主とは直接の契約関係がない。地代の請求先は借地人になる。 |
| サブリース賃料の減額要請 | サブリース契約にも借地借家法の賃料増減額請求の規定が適用されるとされ、賃料が保証されていても、減額が相当かは相場・契約の経緯・建物の状態などで総合判断される。無条件には受け入れなくてよい。 |
| 地代滞納と契約解除のリスク | 滞納が続けば、信頼関係の破壊を理由に解除を主張できる場合があるが、解除すると入居者・サブリース会社・地主の全員に不利益が及ぶ。 |
| 三者協議と直接支払いの仕組み | 根拠資料を示して話し合い、サブリース賃料の一部を地主へ直接支払う仕組みを設けると、地代の支払いが確実になる。 |
| 各自が少しずつ譲る合意の書面化 | 減額幅の圧縮、滞納分の分割払い、遅延損害金の一部免除などを三者連名の書面にまとめ、見直し時期や手順も取り決めておく。 |




