ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
清水義夫(67歳)は、長年にわたって土地を貸してきた借地人の村田さんから、ある日思いがけない言葉を聞いた。「実は、娘夫婦に家を貸して、私は別の場所に住んでいるんです」
義夫は驚いた。村田さんが家を出て、娘夫婦がその家に住んでいるとは知らなかった。地代は変わらず村田さんから振り込まれていたため、まったく気づかなかったのだ。後日、専門家に相談すると、これが「無断転貸」に当たる可能性があると指摘された。
「借地借家法では、借地人が借地上の建物を第三者に転貸する場合、地主の承諾が必要です。今回のように、地主に無断で建物を他の人に貸すことは、借地契約の重大な違反になり得ます」
「娘夫婦ということですが、家族への転貸も承諾が必要ですか」と義夫は聞いた。「はい、原則として必要です。親族であっても、借地人以外の第三者が建物を占有・使用する場合は転貸に当たります。ただし、同居の家族への使用許諾は転貸に当たらないとされる場合もあります。今回は村田さん自身が別の場所に移っているため、実質的な転貸と判断される可能性が高いです」
「この場合、契約を解除できますか」という問いに、専門家はこう答えた。「無断転貸は契約解除の事由になり得ますが、直ちに解除できるとは限りません。裁判所は『信頼関係破壊の理論』という考え方を採用しており、無断転貸があっても、それが地主と借地人の信頼関係を破壊するほどの背信行為でなければ、解除は認められないとされています。今回のように地代が滞りなく支払われているケースでは、解除が認められないこともあります」
「では、どう対応すればいいですか」「まず村田さんに事実関係を書面で確認することです。正式に転貸を承諾するか、承諾しない旨を伝えるかを決めましょう。承諾する場合は転貸承諾料を取り決め、書面化しておくことをお勧めします。承諾料の相場は、借地権価格の三パーセントから五パーセント程度が目安です。無断で行われた事実を記録に残しておくことも重要です」
義夫は村田さんと話し合いの場を設けた。村田さんは「地主さんに言いにくくて……」と申し訳なさそうに話した。義夫も率直に「事前に相談してほしかった」と伝えた。
最終的に、転貸の事実を書面で確認し、転貸承諾料を取り決めた上で正式に承諾する形で決着した。村田さんも今後は変更事項は必ず事前に相談するという約束を書面に記した。義夫は「話し合ってよかった」と感じた。長い付き合いを壊したくなかったからこそ、冷静に向き合うことができた。
借地上の建物の無断転貸は、発覚しにくいが大きなリスクを伴う問題だ。借地人としては必ず事前に地主の承諾を得ることが大事となる。
義夫はこの経験を通じて、借地関係において「知らないことがトラブルの始まりになる」と実感した。地主として定期的に借地人とコミュニケーションを取ることが、こうした問題の早期発見につながる。年に一度でも、近況を確認し合う関係を保つことが、長く続く信頼の基盤になる。また、何か変更が生じた際には必ず書面で記録を残すという習慣が、双方を守ることになる。
【この記事で学べること】
借地上の建物を第三者(親族含む)に貸す場合は地主の事前承諾が必要です。無断転貸は契約解除の事由になり得ますが、「信頼関係破壊の理論」により直ちに解除できないケースもあります。発覚時は承諾料(借地権価格の3〜5%目安)を取り決め書面化しましょう。




