『底地の一括売却』利回り2%の底地を投資家やREITが買う理由
平井紀子は六十九歳。亡き夫から、三か所の底地を相続した。それぞれ、借地人に貸している。三か所の更地価格を合わせると約一億五千万円。ところが、地代の収入は年間で約百六十万円、固定資産税などを引くと、手元に残るのは、わずか百二十万円ほどだった。更地価格に対する利回りは、一パーセントにも満たない。
二人の子どもは、遠方に暮らしている。将来、相続税を払うことになれば、底地のままでは、納税資金の工面も、管理も、重い負担になる。紀子は、不動産会社に相談し、三か所の底地を、まとめて売却する方法を探り始めた。一か所ずつ売るより、まとめたほうが、買い手も見つかりやすいと聞いたからだ。すると、投資会社から、約五千四百万円で買い取りたいという提案が届いた。更地価格の三割台だ。
紀子は、首をかしげた。「地代は年間で百六十万円。五千四百万円に対して、利回りは三パーセント。固定資産税を引けば、二パーセント程度でしょう。そんな低い利回りの底地を、なぜ買うのですか。何か裏があるのではないでしょうか」。担当者は、率直に答えた。「地代収入だけを狙っているわけではありません。底地の買取には、いくつかの収益源があるのです」。
担当者は、買い手の顔ぶれも説明した。底地の買取は、底地を専門に扱う不動産会社や、資金を集めて運用するファンドが中心だという。そのうえで、順に説明した。一つ目は、安定した地代収入。二つ目は、更新料や承諾料など、契約の節目に入る収入。三つ目は、借地人への底地の売却。借地人にとって、底地を買えば、完全な所有権が手に入る。そして四つ目が、借地権を買い取る方法だ。底地と借地権を一人が持てば、制限のない、更地と同じ価値の土地になる。
担当者は、仮の数字で示した。三か所の更地価格が約一億五千万円。底地を約五千四百万円で買い、借地人から借地権を、約六千万円で買い取れば、取得の合計は約一億一千四百万円。これを一体で売却できれば、約一億五千万円、費用を除いて、差額が収益になる。「借地人さんが売りたいときに、買い取る。時間をかけて、完全所有権へ近づけるのです。もちろん、すべての借地権を買えるわけではありませんし、時間もかかります」。
紀子は、少し考えてから、不安を口にした。「借地人の皆さんは、どうなるのですか。急に地代を上げられたりしませんか」。担当者は、慎重に答えた。「契約の内容は、そのまま引き継がれます。地代の改定には、正当な根拠が必要です」。それでも、紀子は、借地人への説明が気がかりだった。長年の付き合いが、突然、見知らぬ会社に変わるのだ。夫が生きていたころ、借地人たちと一緒に、年末の挨拶を交わした日々を思い出した。
紀子は、娘にも相談したうえで、三社から見積もりを取った。提示額は、約四千八百万円から約五千四百万円までと、開きがあった。さらに、各社の実績や、借地人との契約を引き継ぐ方針も聞き取った。最終的に、最も高い額を示し、借地人への説明に協力してくれる会社を選んだ。契約書には、借地契約の条件を維持する旨も、明記してもらった。
契約の前に、紀子は、三人の借地人を一軒ずつ訪ねた。事情を説明すると、借地人たちは、驚きながらも、「ずっと同じ条件なら安心です」と言ってくれた。譲渡所得の税金は、税理士に試算してもらい、手元に残る金額も確認した。紀子は今、底地を手放す前に、価格の比較と、借地人への説明が欠かせないと、知り合いの地主に伝えている。
学びのボックス
| 底地の利回りが低い理由 | 地代は長年据え置かれがちで、固定資産税を引くと手取りは小さい。更地価格に対する利回りは1〜2%台になることも多い。 |
| 買い手の収益源 | 地代のほか、更新料・承諾料、借地人への底地売却、借地権の買取による完全所有権化と一体売却の差益などがある。 |
| 底地の取引価格 | 底地は更地価格を大きく下回りやすい(例:更地の3割台)。借地権とあわせて売ると評価が上がる場合がある。 |
| 比較と借地人への配慮 | 複数社から見積もりを取り、実績と借地契約の引継ぎ方針を確認する。借地人には事前に説明し、契約条件の維持を書面に残す。 |
| 税金と相続の備え | 売却益には譲渡所得税がかかる。相続税の納税資金の確保や、将来の管理負担を踏まえ、税理士に試算を依頼する。 |




