『堅固建物(RC・鉄骨)への条件変更』承諾料(更地価格の10%)の算定
山崎隆は五十五歳。駅前の三十坪の借地で、一階を店舗、二階を住まいにした木造の建物を、父の代から使っている。築六十年。柱は傾き、地震のたびに不安がよぎった。隆は、思い切って建て替えを決めた。一階を店舗、二階と三階を賃貸住宅にした、三階建ての鉄骨造だ。建築士に頼むと、設計と見積もりは、一か月ほどで整った。建築費の見積もりは、約八千万円。銀行の融資の見通しも立っていた。
建築士は、設計を渡しながら、確認した。「今の借地契約は、昭和の時代に結ばれた、旧借地法の契約です。木造など、堅固でない建物を所有する目的になっています。鉄骨造やRC造は堅固な建物にあたるため、建て替えるには、地主さんの承諾と、借地条件の変更が必要です」。隆は、押し入れから古い契約書を引っ張り出して、見直した。確かに、木造の建物を所有することを目的とする、と書かれていた。
隆は、地主の長谷川さんを訪ねた。八十歳になる長谷川さんは、図面をじっと見て、首を振った。「鉄骨の三階建てだと、土地を貸す期間が、ずっと長くなる。私の代では、土地が戻ってこない」。旧借地法では、堅固な建物の存続期間は、非堅固より長く定められており、そのぶん、地主の負担が大きいと考えられていた。隆は、肩を落とした。
弁護士に相談すると、答えはこうだった。「借地条件の変更は、地主さんの承諾が原則です。ただ、承諾が得られなくても、裁判所に、借地非訟として申し立てれば、条件変更を認めてもらえることがあります。その場合、裁判所は、土地の利用状況や、周辺の環境、地主さんの事情を考えて判断し、承諾料にあたる財産上の給付を命じることがあります」。
弁護士は、続けて、承諾料の目安も教えてくれた。「実務では、非堅固から堅固への条件変更の承諾料は、更地価格の一割前後が、一つの目安とされています。条件変更により、借地権の価値が上がる分を、地主さんと借地人が分け合う、という考え方が背景にあります。ただし、あくまで目安で、立地や土地の形、契約内容によって変わります」。
隆の土地は、駅から徒歩三分の好立地だ。更地価格は、不動産鑑定士の意見で、約六千万円。その一割なら、約六百万円だ。長谷川さんは、当初、更地価格の一割五分、約九百万円を求めた。隆は、近隣の取引事例や、鑑定士の意見書を示して、説明した。「借地非訟になった場合も、一割前後で決まることが多いようです。長引くより、ここで折り合いをつけたいのです」。
交渉は、数回に及んだ。そのたびに、隆は、菓子折りを持って、長谷川さんの家を訪ねた。長谷川さんは、最終的に、承諾料を更地価格の約一割、六百万円とすることに合意した。あわせて、地代は月四万円から五万円に改定する。建物の構造変更と建て替えの承諾書、地代改定の覚書を、一通の合意書にまとめた。弁護士が、書面の内容を丁寧に確認した。建物の構造、階数、完成の時期も、合意書に明記した。
隆は、承諾料を、建築資金とは別に、自己資金で支払った。長谷川さんも、「こちらの事情も分かってもらえた」と、最後は笑顔で握手をしてくれた。新しい建物は、一年後に完成した。賃貸住宅の家賃収入は、地代と承諾料の負担を、十分にまかなえる見込みだ。隆は、事前に相談し、根拠を示して交渉することの大切さを実感した。堅固建物への建て替えを考える借地人は、まず契約の内容と更地価格を確認し、地主に誠実に説明すること。隆は、そう話している。
学びのボックス
| 堅固建物と条件変更 | 木造などの非堅固建物から鉄骨・RC造の堅固建物へ変えるには、借地条件の変更が必要。旧借地法の契約では特に区別がある。 |
| 承諾料の目安 | 非堅固から堅固への条件変更の承諾料は、更地価格の1割前後が一つの目安とされる。立地や契約内容で上下する。 |
| 承諾料の考え方 | 条件変更による借地権の価値の増加分を、地主と借地人で分け合う考え方が背景にある。鑑定士の意見や取引事例を根拠にする。 |
| 借地非訟という選択肢 | 地主が承諾しない場合は、裁判所に条件変更の許可を申し立てられる。裁判所が許可する際は、承諾料にあたる給付が定められる。 |
| 合意書の整理 | 条件変更、建て替え、地代改定は、一通の合意書にまとめると整理しやすい。弁護士に内容を確認してもらう。 |




