『解体更地渡し』で借地権付き建物を売却する手順と地主承諾
大西義男は七十二歳。借地上の平屋に、五十年近く暮らしてきた。築五十五年の家は、雨漏りがひどく、土台にはシロアリの被害もある。子どもたちは遠方に住み、家を継ぐ人はいない。介護施設への入居を考え始めた義男は、借地権を売って、費用にあてることにした。四十坪の土地の地代は、月二万五千円だった。
不動産会社に相談すると、担当者は言った。「この家は、買い手がつきにくいですね。建物を解体して、更地の状態で引き渡す条件なら、借地権だけを買いたいという若いご夫婦がいます」。売買価格は千二百万円。解体費用は、義男が負担して、約百五十万円。義男は、悪くない話だと思った。ただ、買い手が見つかっても、地主の機嫌を損ねれば、すべてが白紙に戻る。義男は、慎重に進めようと決めた。
ただし、担当者は念を押した。「借地権を買主に譲るには、地主さんの承諾が必要です。そのうえ、買主さんが新しく家を建てるためには、建物の取り壊しと、新築についても、あらかじめ地主さんの承諾を取っておく必要があります。順番を間違えると、困ったことになります」。義男は、まず地主の山本さんに、事情を説明しに行った。契約を結ぶ前に相談するのが、いちばん大切だと、不動産会社に言われたからだ。
山本さんは、話を聞いて、考え込んだ。「借地人が変わるのは、構わないが、誰が借りるのかが分からないと、返事ができない」。義男は、買主夫婦の勤務先や家族構成、新築する家の計画を、資料にまとめて説明した。買主夫婦も、自ら山本さんを訪ねて、挨拶をした。夫婦は、新築の資金を銀行から借りる予定で、地主の承諾書が必要になることも、あらかじめ伝えていた。夫婦の誠実な態度に、山本さんの表情も、少しやわらいだ。新築する家の間取り図や、建築会社の名前も見せてもらい、山本さんは、安心した様子だった。
次に、費用の交渉に入った。借地権の譲渡の承諾料は、借地権価格の一割前後、約百二十万円が目安とされる。山本さんは、さらに言った。「新しい人が借りるなら、地代も見直したい。月三万円にしたい」。義男と買主は、相談して、承諾料の約百二十万円は義男が負担し、地代は月三万円で新借地人が引き継ぐことに、合意した。
こうして、山本さんから、一通の承諾書が出された。内容は、借地権の譲渡の承諾、建物の取り壊しの承諾、買主による新築の承諾の三つ。義男は、この承諾書をもらってから、買主と売買契約を結んだ。契約書には、地主の承諾が得られなければ契約は白紙に戻る、という条件と、解体の期限、更地の状態での引渡しが、明記された。
解体工事は、承諾書と契約のあとに行われた。解体が終わったら、一か月以内に、建物の滅失登記を申請しなければならない。登記は、司法書士が済ませた。解体した直後は、土地の上に建物がないため、借地権を第三者に主張するための足がかりが弱まる。必要なら、土地の上に、建物を特定する事項などを掲示する方法もあると、司法書士は教えてくれた。決済までの期間が短かったこともあり、特に問題は起きなかった。
決済の日、義男は売却代金千二百万円を受け取った。解体費用約百五十万円、承諾料約百二十万円、仲介手数料などを差し引いて、手取りは約八百九十万円。山本さんは、新しい借地人と、あらためて契約書を取り交わした。義男は、手続きの順番がすべてだったと、振り返る。承諾をもらってから契約し、契約をしてから解体する。その順番を守れば、更地の渡しも怖くないと、義男は今、周囲に伝えている。
学びのボックス
| 更地渡しの売却とは | 古い建物を解体し、更地の状態で借地権を売る方法。建物の価値が低い場合に有効だが、解体費用は売主負担になることが多い。 |
| 同時に取る3つの承諾 | 借地権の譲渡、建物の取り壊し、買主の新築の3点について、地主の承諾を事前に書面で取る。承諾書は売買契約の前にもらう。 |
| 承諾料と地代の交渉 | 譲渡承諾料は借地権価格の1割前後が目安。新借地人への交代を機に、地代の見直しを求められることもある。 |
| 契約と解体の順番 | 承諾書の取得後に売買契約を結び、契約に承諾の停止条件、解体期限、更地引渡しを明記する。解体は契約後に行う。 |
| 滅失登記と対抗力 | 解体後1か月以内に建物の滅失登記を行う。建物がなくなると借地権の対抗力が弱まるため、決済までの期間は短くする。 |




