『地主の相続対策』底地を法人化して相続税を圧縮する手法
宮本義之は、親から引き継いだ底地を含め、都内近郊に八筆の底地を所有する地主だった。毎月の地代収入は年々積み上がり、確定申告のたびに、所得税の負担の重さを実感するようになっていた。さらに六十代半ばを迎え、将来の相続税も気がかりだった。義之は顧問税理士に、「底地を法人にまとめる方法があると聞いたのですが」と相談を持ちかけた。知人の地主が資産管理会社をつくって節税していると聞き、自分も取り入れられないかと考えたのがきっかけだった。
税理士は、まず全体像を整理してくれた。「底地を法人に持たせる方法は、大きく二つに分かれます。一つは、底地そのものを個人から法人へ移す方法。もう一つは、底地は個人名義のまま残し、地代の管理を法人に任せて管理料を支払う方法です。どちらも、地代収入にかかる税負担を分散する狙いがありますが、性質はまったく違います」。
「底地を法人に移す場合、個人の義之さんが法人へ土地を売却する形になるのが一般的です。売却益には譲渡所得税がかかり、法人側にも登録免許税や不動産取得税といったコストが発生します。底地の価格が高いほど、この初期負担は重くなります」。義之は、思った以上に費用がかかることに驚いた。
「一方、管理委託方式であれば、土地の名義は変わらないため、こうした移転コストは生じません。法人に管理業務を委託し、地代の集金や契約更新の手続きを任せる対価として、管理料を支払います。この管理料が法人の収入になるので、地代収入の一部を法人側に移すことができます。ただし、管理料が実際の業務内容に比べて不相当に高いと、税務署に否認される可能性があるため、相場に沿った水準に設定する必要があります」。
義之は、まず管理委託方式から始めることにした。資産管理会社を設立し、妻と長男を役員に迎えたうえで、法人が底地の管理業務を担う体制を整えた。役員報酬は、実際の業務の内容に見合った金額に設定した。個人に集中していた所得が、法人と家族に分散され、義之の所得税の負担は以前より軽くなった。借地人への連絡や契約更新の手続きも、実際に法人の名前で行うようにし、書面でも業務の実態が残るように心がけた。
将来の相続税については、税理士は慎重に説明した。「底地を法人に移した場合、相続の際に評価されるのは底地そのものではなく、法人の株式になります。株式の評価額は法人の純資産などをもとに計算されるため、一律に下がるわけではありません。特に、法人が取得してから三年以内の不動産は、路線価ではなく通常の取引価額で評価されるルールがあるので、注意が必要です」。
「法人化の本当の効果は、株式を計画的に長男さんへ贈与していくことで、将来の値上がり分を早めに次の世代へ移せる点にあります。ただし、設立費用や毎年の決算・申告の手間、法人住民税などの維持コストもかかります。メリットとコストを比較して判断することが大切です」。
義之は、管理委託方式で数年様子を見たうえで、一部の底地だけを法人に移すかどうかを検討することにした。急いで全てを移さず、効果と負担を見極めながら進める姿勢を選んだ。
この経験を通じて義之は、底地の法人化は、単に税金を減らす魔法ではなく、所得の分散と将来の世代交代を見据えた長期の設計であることを学んだ。専門家と相談しながら、自分の資産と家族の状況に合った方法を選ぶことの大切さを、義之は身をもって理解した。現在、義之は年に一度、税理士と長男を交えた三者面談を開き、法人の決算内容と今後の方針を共有する場を設けている。
学びのボックス
| 底地の法人化の2つの方法 | 底地そのものを法人へ移す方法と、底地は個人名義のまま管理を法人に委託して管理料を支払う方法がある。 |
| 底地を移す場合のコスト | 個人から法人への売却では譲渡所得税のほか、登録免許税・不動産取得税などの移転コストが生じ、底地の価格が高いほど初期負担が重くなる。 |
| 管理委託方式と管理料の水準 | 名義を変えずに地代収入の一部を法人へ移せるが、管理料が業務内容に比べて不相当に高いと否認されるおそれがあり、相場に沿った設定が必要。 |
| 相続税評価は一律に下がらない | 法人へ移すと評価対象は底地から法人の株式に変わり、純資産などで計算される。取得後3年以内の不動産は通常の取引価額で評価される点にも注意。 |
| 維持コストと長期の設計 | 設立費用、決算・申告の手間、法人住民税などの維持コストを踏まえ、株式の計画的な贈与も含めて、専門家と長期の設計を行う。 |




