『借地権の競売落札』落札した第三者と地主の攻防戦
小野寺幸雄が貸している土地には、借地人の川村さんが建てた木造住宅があった。ところが川村さんが住宅ローンの返済に行き詰まり、建物は債権者の申立てで競売にかけられてしまった。数か月後、競売の結果を知らせる書面が届き、建物を落札したのは、地元の不動産業者だった。川村さんは長年きちんと地代を払ってくれていた借地人だっただけに、幸雄は複雑な思いでその書面を読んだ。
まもなく、その業者の担当者が幸雄を訪ねてきた。「建物を落札しましたので、借地権の譲渡を承諾していただきたいのです。承諾料は、ごく一般的な水準でお願いしたいと考えています」。担当者は丁寧な口調だったが、提示された承諾料は、幸雄が想像していた金額よりもかなり低いものだった。幸雄は即答を避け、弁護士に相談した。
「借地権付き建物が競売で売られた場合でも、借地権を新しい所有者に移すには、原則として地主さんの承諾が必要です」。弁護士はまずそう説明した。「ただし、落札者が借地権を取得しても地主さんに不利益がないのに承諾しない場合は、落札者が裁判所に、承諾に代わる許可を求める申立てができます。この申立てには期限があり、建物の代金を納付してから二か月以内に限られています」。
幸雄は、業者が急いで承諾を求めてきた理由を理解した。期限を過ぎれば許可を求められなくなるため、業者のほうに時間的な余裕がないのだ。弁護士は、「その期間制限は、交渉では地主さんに有利に働く場合もあります。ただし、むやみに引き延ばすと、裁判所の手続きに進み、地主さんの意向が通らない可能性もあります」と慎重に付け加えた。
さらに弁護士は、地主に与えられたもう一つの選択肢を教えてくれた。「裁判所の手続きの中で、地主さんは、自ら建物と借地権を譲り受けたいと申し立てることができます。いわゆる優先買取です。これが認められれば、第三者に借地権を渡さずに、土地と建物を自分の手に取り戻せます」。
幸雄は、二つの道を比べることにした。一つは、落札者の譲渡を承諾して承諾料を受け取る道。もう一つは、優先買取を申し立てて、自ら建物と借地権を取得する道である。幸雄は不動産鑑定士に依頼し、借地権と建物の評価額を算定してもらった。優先買取の価格は、最終的には裁判所が適正な水準に定めるため、鑑定額が大きな判断材料になるという。
試算の結果、優先買取には、まとまった資金が必要になることが分かった。購入後は建物の管理や活用も自分で担わなければならない。幸雄は、年齢や今後の生活設計を考え、今回は優先買取を見送り、承諾料を受け取る道を選ぶことにした。
ただし幸雄は、優先買取を検討したという事実を、交渉の材料として使った。鑑定評価をもとに適正な承諾料の水準を示し、「裁判所の手続きになれば、こちらも優先買取の申立てを視野に入れています」と伝えたのだ。業者側も、手続きが長引くことを避けたかった。結局、承諾料は借地権価格の一割前後という、一般的な相場の水準で合意に至った。
あわせて幸雄は、新しい借地人となる業者との間で、借地契約の内容を書面で整理し、地代の支払い方法や建物の使い方についても取り決めを交わした。
この経験を通じて幸雄は、借地権が競売にかけられても、地主には、承諾料の交渉や優先買取という選択肢があることを学んだ。落札者側の期間制限を理解し、鑑定評価という根拠を持って交渉に臨むことの大切さを、幸雄は身をもって理解した。譲渡が完了した後、幸雄は新しい借地人の業者と顔を合わせ、今後の連絡方法を確認し合った。以前の借地人だった川村さんにも、事情を落ち着いて説明する機会を持つことができた。
学びのボックス
| 競売でも地主の承諾が必要 | 借地権付き建物を競売で落札した第三者が借地権を取得するには、原則として地主の承諾が必要になる。 |
| 競売代諾許可の申立てと期間制限 | 地主が承諾しない場合、落札者は裁判所に承諾に代わる許可を求められる。この申立ては、建物の代金を納付した後2か月以内に限られる。 |
| 期間制限を交渉にどう活かすか | 落札者には時間的な余裕がないため、交渉では地主に有利に働く場合もあるが、むやみに引き延ばすと裁判所の手続きに進むことになる。 |
| 地主の優先買取という選択肢 | 裁判所の手続きの中で、地主は自ら建物と借地権を譲り受けたいと申し立てられる。価格は最終的に裁判所が適正な水準に定める。 |
| 承諾料か優先買取かの判断 | 鑑定評価をもとに、必要な資金、購入後の管理負担、年齢や生活設計を比較して判断する。優先買取の検討自体が承諾料交渉の材料にもなる。 |




