『旧法借地権』から『新法定期借地』への切り替え
関口正雄は、祖父の代から続く借地契約を、借地人の谷口さんとの間で見直すことになった。谷口さんが住む木造住宅は築六十年近くが経過しており、そろそろ建て替えを考えているという相談を受けたのがきっかけだった。契約は旧借地法時代に締結されたもので、正雄としては、この機会に契約関係をすっきりさせたいという思いもあった。祖父の代から数えると、実に三世代にわたって続いてきた付き合いだった。
正雄が司法書士に相談すると、旧法の借地権がいかに借地人に有利な権利であるかを改めて説明された。「旧法の借地権は、正当事由がなければ地主から契約の更新を拒絶できず、建物が堅固であれば存続期間も長期にわたります。谷口さんが今のまま建て替えをすれば、新しい建物にもこの旧法上の権利がそのまま引き継がれる可能性があります」。正雄はこれを機に、旧法の権利をいったん解消し、期間の定めが明確な定期借地権に切り替えられないかと考えた。
谷口さんに相談したところ、意外にも前向きな返事が返ってきた。「うちも子供が独立して、この家をずっと持ち続けるつもりはない。期限が決まっている契約のほうが、将来の見通しも立てやすいかもしれない」。双方の思惑が一致し、旧法の借地契約を合意解除したうえで、新たに一般定期借地権として契約を結び直すことになった。
ところが、司法書士はここで税務上の注意点を指摘した。「旧法の借地権を解消して新たに借地権を設定し直す際、権利金の授受がまったくないと、地域によっては、本来支払われるはずの権利金相当額の利益を借地人が地主から贈与されたとみなされるリスクがあります。逆に、旧法上の強い権利を谷口さんが手放す形になるので、その対価が不十分だと、今度は地主が経済的利益を得たとみなされる可能性も出てきます」。正雄は、単に契約を切り替えるだけの話だと軽く考えていただけに、思いのほか複雑な問題だと知って身構えた。
正雄と谷口さんは、税理士も交えて条件を整理した。新しい定期借地契約では、契約期間満了時に更地で返還することを明確にし、権利金の授受は行わない代わりに、地代を従来よりやや高めに設定することで、実質的なバランスを取ることにした。あわせて、将来無償で土地を返還する旨を契約書に明記し、この経緯を裏付ける書面を税務署にも届け出ておくことで、権利金相当額の贈与とみなされるリスクを避けられるとの助言を受けた。税理士からは、こうした条件変更の経緯や合意に至った理由を、後から説明できるよう記録に残しておくことも勧められた。地代の見直し幅についても、近隣の相場や公租公課の推移を根拠に、双方が納得できる水準を慎重に探っていった。
半年にわたる協議の末、正雄と谷口さんは公正証書によって新たな定期借地契約を締結した。谷口さんは契約に基づいて新しい建物の建築計画を進め、正雄は将来的に更地での返還が約束された安心感を得ることができた。
翌年、谷口さんの新居が完成し、正雄は完成祝いに招かれた。三世代続いた付き合いが、今度は明確な期限のある契約という形に生まれ変わったことを、二人はあらためて確認し合った。この経験を通じて正雄は、長年続いてきた契約関係を見直すことは、単なる書面の書き換え以上に、税務上の細やかな配慮が必要な作業であることを学んだ。次に同様の相談を受けることがあれば、早い段階から税理士と司法書士の両方に相談することを心がけたいと考えている。
学びのボックス
| 旧法借地権と新法定期借地権の違い | 旧法借地権は正当事由がなければ更新拒絶できず存続期間も長期にわたるが、定期借地権は更新がなく期間満了で確実に土地が返還される。 |
| 契約切り替えの合意解除の意義 | 双方合意のもと旧法契約を解消し新たに定期借地契約を結び直すことで、将来の権利関係を明確にできる。 |
| 権利金授受のない場合のリスク | 権利金授受慣行のある地域で権利金の授受なく借地権を設定すると、権利金相当額の利益の贈与とみなされるおそれがある。 |
| リスクを避けるための実務対応 | 将来無償で土地を返還する旨を契約書に明記し、その経緯を裏付ける書面を税務署に届け出ておくことで、贈与課税のリスクを避けられる。 |
| 地代の見直しによるバランス調整 | 権利金を授受しない代わりに地代水準を見直すなど、契約全体で経済的なバランスを取ることも実務上の工夫の一つ。 |




