『共有の底地』1人が反対して売却できない
中村家の三兄弟、長男の博之、次男の秀樹、三男の智也は、父の死後、地元の商店街に近い底地を三分の一ずつの共有で相続した。借地人が営む駐車場からの地代収入はそれなりにあったが、三人とも遠方で暮らしており、共有名義のまま土地を持ち続けることに漠然とした不安を感じていた。父の生前から、いずれこの土地をどうするかという話し合いは避けられてきた課題だった。
きっかけは、大手不動産会社から「この土地を含めた一帯を再開発したいので、底地を売却してほしい」という打診が来たことだった。博之と秀樹はまとまった売却益に前向きだったが、智也だけは頑なに反対した。「先祖代々受け継いできた土地を、金のために手放すなんて考えられない」というのが智也の言い分だった。三人での話し合いは何度重ねても平行線をたどり、売却の話は完全に行き詰まってしまった。
博之は司法書士に相談し、共有不動産の売却に関するルールを改めて確認した。「共有物全体を売却するには、共有者全員の同意が必要です。智也さんが反対している以上、土地全体の売却は進められません」。司法書士はそう説明したうえで、近年の民法改正にも触れてくれた。「共有物の管理に関するルールが見直され、軽微な変更であれば持分の過半数で決められるようになりましたが、売却のような処分行為は、これまでどおり全員の同意が原則です」とのことだった。所在等不明共有者がいる場合の裁判所を通じた手続きも新設されたが、智也は健在で明確に反対の意思を示しているため、そのルールも今回は使えないという。
行き詰まった博之は、別の選択肢についても相談した。「ご自身の共有持分だけであれば、他の共有者の同意なく、単独で売却することができます。共有持分専門の買取業者も増えていますので、そちらに相談する方法も現実的です」。司法書士はそう教えてくれた。博之にとっては初めて聞く選択肢だった。土地全体の売却にこだわり続けるよりも、まずは自分たちの持分だけでも動かせる方法があると知り、博之は少し肩の力が抜けるのを感じた。ただし、持分だけを見ず知らずの第三者に売ってしまうと、智也が新たな共有者と関係を築き直さなければならなくなる点は、あらかじめよく考えておく必要があるとも助言された。
博之と秀樹は、智也の意向を尊重しつつも、いつまでも塩漬けにしておくわけにはいかないと考え、それぞれの持分だけを共有持分専門の買取業者に売却する方向で検討を進めた。複数の業者から査定を取り、条件を比較したところ、共有持分のみの売却は、土地全体を売却する場合に比べて価格が低くなる傾向があると説明を受けたが、博之と秀樹は「多少目減りしても、塩漬け状態から抜け出せるなら」と、売却に踏み切ることにした。
最終的に、博之と秀樹は持分を買取業者に売却し、智也は自分の持分だけを残して土地を保有し続けることになった。共有者が入れ替わったことで、智也は新たな共有者である買取業者と、今後の土地活用について改めて話し合う必要が生じたが、少なくとも兄弟間の対立は解消された。
半年後、智也は買取業者の担当者と何度か面談を重ね、駐車場としての運用を当面継続する方向で合意した。博之と秀樹は売却で得た資金をそれぞれの生活に充て、三人の間では以前のようなわだかまりのない関係が戻ってきている。共有名義のまま塩漬けになっていた頃には想像もできなかった穏やかな雰囲気だと、博之は感じている。年末には久しぶりに三人で顔を合わせ、父の墓参りに行く約束をしたと、博之は嬉しそうに話している。
学びのボックス
| 共有物の処分行為(売却) | 共有物全体の売却などの処分行為には、共有者全員の同意が必要。1人でも反対すれば売却できない。 |
| 共有物の管理・変更ルールの改正 | 近年の民法改正により、軽微な変更は持分の過半数で決定できるようになったが、売却のような処分行為は引き続き全員同意が原則。 |
| 所在等不明共有者への対応 | 共有者の一部が所在不明・氏名不明な場合、裁判所の手続きを経て残りの共有者だけで変更・売却を可能にする制度が新設されたが、反対の意思を明確にしている共有者には使えない。 |
| 共有持分のみの売却 | 自分の共有持分だけであれば、他の共有者の同意なく単独で第三者に売却できる。 |
| 持分売却の留意点 | 持分のみの売却は価格が下がる傾向があり、新たな共有者(買取業者等)と残った共有者との関係構築が必要になる点も考慮すべき。 |




