ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
「この物件、借地なんですが、ローンって組めますか?」
新婚一年目の木村翔太(32歳)と妻の彩(29歳)が、地元の大手銀行の住宅ローン窓口で尋ねると、担当者はファイルを取り出しながら少し表情を曇らせた。
二人が購入を検討しているのは、都内近郊の閑静な住宅街にある借地権付きの物件だ。土地代がかからない分、同エリアの分譲地よりずっと手が届く価格だった。
「融資自体は可能ですが、条件があります。地主さんに、この書類に実印を押してもらう必要があります」
差し出されたのは「土地賃貸借に関する承諾書(当行指定様式)」と書かれたA4の書類だった。
地主が「拒否」した
翔太はその日のうちに地主・野口家に連絡を取り、書類を持参して説明した。しかし野口家の当主・野口正義(68歳)は内容を読んで首を縦に振らなかった。
「ここに書いてある『競売時に買受人に借地権を承諾する』というのが引っかかる。うちが知らない人間に土地を使われる可能性が生じるじゃないですか」
銀行の承諾書には、ローンが返済できなくなった場合に建物が競売にかけられるとき、地主が新しい借地人(落札者)に借地権を認めるという条項が含まれていた。地主にとって将来の権利関係が縛られるリスクがある——野口氏の懸念はもっともだった。
銀行に状況を報告すると「承諾書なしでは融資できません」と即答された。翔太と彩は途方に暮れた。
別の道を探す
借地権取引の経験が豊富な不動産会社の担当者・岸川さんが動いてくれた。
「まず、承諾書なしでも融資できる金融機関があります。フラット35(住宅金融支援機構)や、借地権融資に積極的な信用金庫・地方銀行です。当行だけがすべてではありません」
翔太は三つの金融機関に打診した。地元の信用金庫が「承諾書なしで融資可能」と回答してきた。金利はメガバンクより若干高かったが、許容できる範囲だった。
地主の「懸念」を取り除く
並行して岸川さんは野口氏との交渉を続けた。
「野口さんが心配されている競落時の承諾条項について、文言を修正する提案をしてみましょう。たとえば『承諾は個別に協議する』という条件付きにすることで、地主さんの裁量を残せます。銀行によってはこの修正に応じてくれるケースがあります」
信用金庫の担当者と協議した結果、承諾書の競売条項を「地主が別途協議のうえ承諾する」という表現に修正することで金融機関側も合意してくれた。
再提示された修正版を読んだ野口氏は、しばらく考えてから言った。「この内容なら、実印を押してもいい。ただ、承諾料として三十万円いただきたい」
翔太と彩は話し合い、承諾料を受け入れることにした。
借地でも夢のマイホームは実現できる
ローンの本審査が通ったのは、物件を見てから四ヶ月後のことだった。
「大変だったけど、同じエリアで土地ごと買うより2,000万円近く安い。ここに家を建てたい気持ちは変わらなかった」と彩は言った。
借地権付き物件の住宅ローンは、確かにハードルが高い。しかし金融機関の選択肢を広げ、地主との文言交渉を丁寧に積み上げれば、必ず道は開ける。大切なのは、借地権の実務に精通した専門家を早期に味方につけることだ。
【学びのボックス:借地権住宅ローンのポイント】
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銀行が求める「承諾書」とは |
借地権付き建物への住宅ローンでは、金融機関が地主に対し「土地賃貸借に関する承諾書(銀行指定様式)」への実印捺印を求める。抵当権設定や競売時の協力を約束する内容で、地主の義務ではなく任意の協力。 |
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地主が断れる理由 |
承諾書の内容には「競売時に買受人に借地権を承諾する」「抵当権実行時に協力する」などが含まれることがあり、地主にとって将来の権利関係を拘束されるリスクがある。拒否は法的に許される。 |
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承諾書なしで融資可能な金融機関 |
フラット35(住宅金融支援機構)や、借地権融資に積極的な信用金庫・地方銀行は承諾書なしで融資するケースがある。複数の金融機関へ打診することが重要。 |
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承諾料と地主交渉 |
地主が承諾書に応じる条件として、承諾料(数十万円〜)を求めることがある。また承諾書の文言を地主側に有利な内容に修正することで合意に至るケースも多い。 |
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借地権に詳しい不動産会社の活用 |
借地権付き物件の購入・ローン手続きには、借地権取引の実績がある不動産会社や司法書士の同行・交渉サポートが非常に有効。地主との関係構築から承諾書取得まで一括して動ける専門家を選ぶ。 |




