ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
榎本誠一(61歳)が父の遺した土地の存在を知ったのは、相続手続きの最中に司法書士から連絡を受けたときだった。
「登記簿を確認したところ、お父様の土地の一部に旧法借地権が設定されています。ご存知でしたか」
誠一には心当たりがなかった。父は几帳面な人だったが、この土地については何も話してくれていなかった。
専門家に詳しく説明を求めると、旧法借地権と現行の借地権の違いから丁寧に教えてもらえた。
「現在の借地借家法は平成四年に施行されました。それ以前に結ばれた借地契約には、旧借地法が適用されます。旧法の借地権は存続期間が非常に長く、建物の構造によって木造なら二十年以上、堅固な建物なら三十年以上が原則です。また、地主側からの更新拒絶には正当事由が必要で、借地人の権利が非常に強く守られています」
「つまり、地主側から簡単に契約を終わらせることはできないということですか」
「そうです。正当事由がない限り、地主からの契約解除はほぼ認められません。旧法借地権は借地人にとって非常に手厚い保護がある権利です。地主にとっては、その分だけ土地を自由に活用しにくいという面があります。相続した底地の価値が通常より低く評価されるのも、この強い借地権が原因の一つです」
「正当事由とは、具体的にどういうことですか」
「地主が自分でその土地を使う必要がある、建物が老朽化して危険な状態にあるなど、客観的に認められる事情が必要です。単に土地を売りたい、活用したいというだけでは正当事由とは認められません」
土地を実際に見に行くと、そこには古い木造家屋が建っていた。借地人の野口さん(72歳)が長年住んでいるという。地代の振込記録をたどると、父の時代から三十年以上、一度も途切れることなく払われていた。
誠一は野口さんに連絡を取り、話し合いの場を設けた。野口さんは「お父様にはずっとお世話になっていました。新しい地主さんがどんな方か不安でしたが、こうして会っていただけて安心しました」と言った。
誠一は今後の方針を専門家と一緒に整理した。
「選択肢は大きく三つです。一つ目は現状維持で、地代を受け取りながら底地を保有し続ける方法。二つ目は野口さんに底地を買い取ってもらう方法で、野口さんが希望すれば完全な所有権を取得できます。三つ目は誠一さんが借地権を買い取り、底地と合わせて完全所有権にした上で売却する方法です。旧法借地権付きの底地は市場での評価が低くなりがちですが、権利を一体化することで価値が大きく上がります」
誠一は野口さんとの対話を重ねた。野口さんには息子がいるが、この家を引き継ぐつもりはないという。「私が元気なうちに、きれいにしておきたい」という野口さんの言葉が、話し合いを前向きにした。
専門家を交えた交渉の末、野口さんが底地を買い取る形で合意が成立した。手続きには数ヶ月かかったが、権利関係がすっきりと整理された。
父が誠実に守り続けた土地と借地人との関係を、誠一は今度は自分の手で、きちんと次へ受け渡すことができた。
【この記事で学べること】
平成4年以前に結ばれた「旧法借地権」は現行法より借地人の権利が強く、地主からの解除がほぼ認められません。底地を相続したら、新法・旧法の区別を確認した上で専門家と選択肢を整理しましょう。




