相続税について考えるとき、ふと「日本の相続税は高い気がする」と思うことがあるでしょう。実際、日本の場合、最大で55%もの相続税率が課せられるので、高いと思うに違いありません。それでは海外の相続税はどうなのでしょう?
ここでは海外の相続税事情について簡単に紹介をしていきます。なお、本記事は、2016年4月時点の内容に基ずいて書いております。もし海外の最新の情報を得たいのであれば、税理士などの専門家にアドバイスを求めるようにしてください。
各国の相続税の3つの種類
相続税には、どのような種類があるのかを説明していきます。その種類は「遺産取得課税方式」「遺産課税方式」「併用方式」の3つです。ここではそれぞれの特徴と、代表的な国を説明しておきます。
- 遺産取得課税方式:ドイツ・フランスなど
遺産取得課税方式とは、相続財産を取得した相続人が税金を納める方法です。この方式は「受贈税」としての意味合いが強いです。
それぞれの相続人がいくら財産を相続したかに着目して税額を決定します。
この遺産取得課税方式を採用するメリットは、特定の相続人に対しての富の集中を防ぐことができ、租税の公正性を担保できる点にあります。しかし、個人に課される課税方式であるため、相続人間で納税額に差が出てしまう特徴もあります。また、遺産分割の割合に応じて相続税の合計額も変わってしまいます。
この方式を採用しているのがドイツやフランスなどです。この遺産取得課税方式は「相続人の偶然の富の増加を抑制しよう」とする考え方を持つ国家で採用されています。 - 遺産課税方式:アメリカ・イギリスなど
遺産課税方式とは、被相続人が保有している相続財産に対して課税する方法です。これは「遺産税」としての意味合いを強く持っています
相続人の人数や相続の割合などに関係なく、被相続人の財産に着目して税額を決定します。
被相続人は亡くなっているため、遺言執行人などが被相続人の財産から払います。まずは先にその被相続人の財産から税金を差し引き、残りの財産を相続人で分割します。
この遺産課税方式を採用すると、相続財産に対して一律に課税できるため、租税回避等を取られにくくなります。また、租税の執行が簡単という特徴も持っています。
この遺産課税方式を採用している代表的な国が、アメリカやイギリスなどです。また、韓国や台湾もこの方式を採用しています。この遺産課税方式は、「被相続人の遺産は社会で還元するものだ」という考え方を持つ国家で採用されています。 - 法定相続分課税方式:日本など
遺産取得課税方式と遺産課税方式を併用する併用方式の一つです。
法定相続分課税方式は、遺産取得課税方式の欠点を補うために作られた課税方式です。具体的な計算方式等は割愛しますが、遺産分割の方法による相続額の差が出ないようにしています。
この方式を採用すると、遺産分割による相続税額に差が出にくくなります。これにより租税の公平性・公正性が担保できています。しかし、制度が複雑で、手続きが煩雑になる欠点が生じています。
こうした法定相続分課税方式を採用しているのが日本です。したがって、日本の相続税制度は他国に比べると、租税の公平性・公正性が高い制度になっていると言えるでしょう。
相続税がある国
相続税制度を設けている代表的な国を紹介します。先進諸国やアジア圏に多く見られる傾向があるようです。
なお、日本円への変換では、切りの良い参考為替レートを利用しています。実際の為替レートではありませんので、ご了承ください。
アメリカの相続税
アメリカでは「最低18%~最高40%の相続税率」が課税される可能性があります。しかし、基礎控除額が545万ドル(日本円で約5億4,500万円)も設けられています。ただし、これは国税に値する「連邦税」の話です。アメリカでは場合によっては別途「州税」も納める必要があります。
イギリスの相続税
イギリスでは「一律40%の相続税率」が課税されることになっています。ただし、基礎控除額が28万5千ポンド(日本円で約4,300万円)分、設けられています。また配偶者の免税制度も整っていることが特徴になっています。
フランスの相続税
フランスでは「最低5%~最高45%の相続税率」で課税されることになっています。フランスでは、7段階の累進課税制度になっています。なお、配偶者控除があるため、基礎控除額は10万ユーロ(日本円で約1,200万円)程度と低くなっています。
ドイツの相続税
ドイツでは「最低7%~最高30%の相続税率」が設定されています。しかし被相続人との関係、例えば兄弟姉妹等は「最低12%~最高40%」と税率が変わるため注意が必要です。なおドイツの基礎控除額は40万ユーロ(日本円で約4,800万円)が設けられています。
韓国の相続税
韓国では「最低10%~最高50%の相続税率」の累進課税制度が採用されています。また、基礎控除として2億ウォン(日本円で約1,800万円)が認められています。そのほか、配偶者控除など、複数の控除が設定されていることが特徴です。
台湾の相続税
台湾では「一律10%の相続税率」となっています。以前は50%の税率が課せられていましたが、2009年の税法改正により低い相続税率となっています。なお基礎控除はなく、配偶者控除などが設けられています。
相続税がない国
世界中には相続税がない国も存在します。イタリアやカナダ、シンガポール、オーストラリアなどの先進国と呼ばれるような国で採用されていません。また、福利厚生が厚いと言われている北欧諸国も相続税を廃止しています。そのほか、中国やインド等の途上国でも相続税がありません。
このように世界中を見渡せば、相続税がない国も多くあります。また、現在、相続税制度を採用しているイギリス、ドイツ、フランス等も、相続税制度を廃止する方向に進んでします。
一方、中国やインドなどの途上国では、相続税制度を採用しようとしている動きも出てきているようです。そのため、時期次第では相続税制度が採用されていたり、廃止されていたりするかもしれません。
主要国の相続税の比較
最後に、財務省のウェブサイトに掲載されている、「主要国の相続税の負担率」を紹介します。配偶者と子供2人の場合の、各国の相続税の税率です。
財務省ホームページ[主要国の相続税の負担率]
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/itn_comparison/j05.htm
グラフを見ると、日本の相続税は一番か二番目に高いことがわかります。日本の相続税の最高税率は55%と最高のため、課税価格が大きくなればなるほど相続税は大きくなっています。
確かに日本の相続税は高いと言えます。2015年1月に相続税が改正されたばかりですので、しばらくはこの税率が続くでしょう。では、多額の相続税を払いたくない場合は、他の国に財産を移して家族ごと移住すれば良いのかというと、必ずしもそれが良いかどうかはわかりません。(参考までに、被相続人が海外に住んでいても、相続人が日本に住んでいたら、国内・海外の両方の財産に対して相続税が課税されます。日本の相続税が課税されないためには、日本国内の財産を海外に移し、被相続人・相続人両方が海外に住む必要があります。
現状、相続税を採用している国、そうでない国、これから採用しようとしている国、これから廃止しようとしている国など、それぞれの国ごとに租税の思惑があるようです。相続税がない国では別の税金が設けられていることもあります。 日本の相続税は高いとはいえ、相続税を納めることは、国家財政を維持するために必要なことです。日本に住む以上は相続税を納めるしかないでしょう。