『所在不明の共有地主』裁判所の手続きで借地権を守れ!
藤井克也が長年借りている土地は、地主の兄弟三人が共有名義で所有していた。長男と次男とは日頃から連絡を取り合える関係だったが、三男だけは十年以上前に消息を絶っており、住民票の異動先すら追えない状態になっていた。克也が老朽化した自宅の建て替えを計画し、増改築の承諾を得ようとしたとき、この「行方不明の共有者」の存在が大きな壁として立ちはだかった。長年住み続けてきた家がいよいよ限界に近づいているだけに、克也の焦りは日に日に強くなっていった。
「共有物の変更行為には、共有者全員の同意が必要なはずです。三男の方の同意が得られない以上、建て替えの承諾も得られないということでしょうか」。克也は不安な気持ちで弁護士に相談した。弁護士は落ち着いた様子で答えた。「たしかに原則はそのとおりですが、令和五年の民法改正で、所在等が不明な共有者がいる場合に利用できる、新しい裁判所の手続きが整備されています」。
弁護士の説明によれば、その制度は「所在等不明共有者の持分に関する変更・管理についての裁判所の決定制度」と呼ばれるものだった。「共有者の一部が不特定であるか、所在が不明である場合、他の共有者の申立てにより、裁判所が一定の手続きを経たうえで、残りの共有者だけで共有物の変更や管理を行うことを可能にする決定を下すことができます。以前は、こうしたケースでは不在者財産管理人の選任を申し立てるなど、より重い手続きが必要になることが一般的でした」。克也にとっては、初めて聞く心強い制度だった。
弁護士はさらに、「まずは三男の方について、住民票や戸籍の附票などを用いて、実際に所在が不明であることを客観的な資料で示す必要があります。そのうえで、長男さんと次男さんが裁判所に申立てを行い、公告などの手続きを経て、決定が下されれば、残りの共有者の同意だけで増改築の承諾を進められるようになります」と説明した。手続きには一定の時間がかかるものの、行方不明のまま何年も待ち続けるよりは、はるかに現実的な道筋だった。
克也は地主である長男・次男と協力し、まず三男の所在調査から着手した。戸籍の附票を確認すると、最後に把握できている住所からすでに転居しており、追跡は困難という結果だった。弁護士のサポートを受けながら、長男と次男は家庭裁判所に申立てを行い、公告期間を経て、裁判所から「三男を除く共有者の同意により管理行為を行うことができる」旨の決定を得ることができた。長男は「弟の行方が分からないまま手続きを進めることに、正直複雑な気持ちもあった」と、当時を振り返っている。
この決定を踏まえ、長男と次男は正式に克也の建て替え計画に承諾を与えることができるようになった。増改築承諾料の取り決めも二人との間で無事に合意し、克也は長年の懸案だった自宅の建て替えを、ようやく進められることになった。
一連の手続きには半年近い時間がかかったが、克也は「もしこの制度がなければ、行方の分からない一人のために、一生建て替えができなかったかもしれない」と、胸をなで下ろしている。所有者不明土地の問題は年々深刻化しているといわれるが、こうした裁判所の手続きが、実際に困っている借地人の暮らしを前に進める助けになったことを、克也は身をもって実感している。無事に完成した新しい自宅で迎えた最初の正月には、長男・次男夫婦も招き、これまでの労をねぎらい合った。
学びのボックス
| 所在等不明共有者とは | 共有者の一部が誰か特定できない、または所在が分からない状態にある共有者のこと。 |
| 令和5年民法改正の裁判所決定制度 | 所在等不明共有者がいる場合、他の共有者の申立てにより裁判所が決定を下し、残りの共有者だけで共有物の変更・管理を可能にする制度。 |
| 申立てに必要な資料 | 住民票や戸籍の附票などを用いて、対象者の所在が実際に不明であることを客観的に示す必要がある。 |
| 従来の不在者財産管理人制度との違い | 以前は不在者財産管理人の選任などより重い手続きが必要だったが、新制度ではより迅速に対応できる場合がある。 |
| 借地人にとっての意義 | 底地の共有者に所在不明者がいても、増改築や名義変更の承諾を得る道が開かれ、借地人の生活再建につながる。 |




