ものがたりで底地借地を学ぶ知るシリーズ
小林誠一(こばやし せいいち)が地元工務店に建て替えの相談をしたのは、昨年の秋のことだった。築五十年を超えた木造の自宅を解体し、新しい家を建てる計画だ。借地権は父の代から引き継いで三十年になる。
工務店の担当者が現地調査に来たとき、一つの問題を指摘した。
「小林さん、隣との境界標(杭)なんですが、地面に埋まっているものと、古い測量図の位置が合っていないようです。正確な位置を確認しないと、建て替えの設計ができません」
誠一は隣の家の佐藤さんに話を持ちかけた。佐藤さんも同じ地主の借地を使っており、長年隣り合わせで暮らしてきた。しかし佐藤さんの反応は冷たかった。
「うちは何も変えていない。杭がずれているとしたら、そちらの工事のせいじゃないか」
誠一は困り果てて、土地家屋調査士の村田さんに相談した。
「境界の問題は、借地人同士だけでは解決できません」と村田さんは言った。「借地の境界は、本来は地主と地主、または地主と借地人が確認すべきものです。今回のケースでは、共通の地主さんを交えて話し合う必要があります」
誠一は地主の林さんに連絡した。林さんは高齢だが話のわかる人で、「それは早めに整理しておいたほうがいい」と協力的な姿勢を示してくれた。
「ただ、隣の土地は別の地主の持ち物ですから、そちらにも声をかけてもらう必要があります」と林さんは付け加えた。
誠一が知らなかったのは、隣の佐藤さんの土地は別の地主・中村さんが所有しているということだった。つまり境界確定には、誠一・佐藤という二人の借地人と、林・中村という二人の地主、合計四者が関与することになる。
村田さんに改めて測量を依頼すると、古い公図と現況の差異が明らかになった。長年のうちに塀が少しずつ動いていたことが原因らしく、双方の言い分にも一定の合理性があった。
「このまま話し合いがまとまらない場合は、『筆界特定制度』を使う方法があります」と村田さんは説明した。法務局に申請すると、筆界特定登記官が現地調査を行い、土地の法律上の境界(筆界)を公的に確定してくれる制度だ。裁判と違い、費用は比較的安く、半年から一年程度で結論が出る。
「ただ、筆界特定はあくまで法律上の境界を調べるものです。塀の移動費用や、これまでの使用状況をどう精算するかは、別途話し合いが必要です」
誠一は村田さんのアドバイスに従い、まず四者が顔を合わせる場を設けることにした。弁護士に間に入ってもらい、中立の立場で進行してもらった。
話し合いの中で、佐藤さんも「意図的に動かしたわけではない」という誠一の説明に理解を示し、測量結果に基づいた境界位置で双方が合意することができた。塀の撤去・再設置費用は折半という着地になった。
四者が署名した境界確認書を作成し、土地家屋調査士が境界標を正式に設置した。誠一はようやく建て替えの設計に進むことができた。
「境界は土地の基本」と村田さんは最後に言った。「建て替えや売買の前に確認しておくと、後のトラブルが防げます。借地だからといって他人事にしないことが大切です」
【学びのボックス:借地の境界トラブルと筆界特定制度】
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境界確定の当事者 |
借地人同士だけでは解決不可。底地所有者(地主)も含めた関係者全員の合意が必要。隣地が別地主なら両地主の関与も必須。 |
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まず行うこと |
土地家屋調査士に依頼して現況測量を行い、公図・旧測量図との差異を確認する。 |
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筆界特定制度とは |
法務局に申請することで、筆界特定登記官が法律上の境界(筆界)を公的に特定してくれる制度。裁判より安価・短期間(目安6か月〜1年)。 |
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筆界特定の限界 |
「どこが法律上の境界か」を示すだけで、塀の撤去費用や過去の使用精算は別途話し合いが必要。 |
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塀の帰属について |
境界線上の塀は、明確な合意がない限り共有とみなされる場合がある(民法229条)。費用負担も含めて書面で明確にしておくことが重要。 |
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予防策 |
建て替え・売買・相続のタイミングで境界確認を実施し、境界確認書を四者(借地人・地主双方)で作成・保管しておく。 |
※境界確定の手続きは個別事情により異なります。土地家屋調査士・弁護士にご相談ください。




