『底地の共有物分割訴訟』1人が売却を拒むなら『競売分割』で強制現金化
加藤家の三兄弟は、父から都内の底地を共有で相続した。借地人が建物を所有する古い借地で、持分は長男の達也、次男の健二、三男の誠が三分の一ずつ。地代は少額で、毎年の固定資産税を払えばほとんど手元に残らず、固定資産税や手間を考えると、収益はほとんど残らなかった。達也と健二は、管理の負担から、底地専門の買取業者に売却したいと考えていた。業者の提示額は、約四千二百万円だった。
ところが、三男の誠が首を縦に振らなかった。「父が大事にしてきた土地を、業者に売るのは納得できない。借地人の方とも長い付き合いがある」。話し合いは何度も開かれたが、平行線のままだった。達也と健二は、誠を説得し続けたが、誠は「売らない」の一点張りで、気づけば一年が過ぎていた。兄弟で集まっても、会話は次第に重くなっていった。
達也は弁護士に相談した。弁護士は、共有物の分割について、丁寧に説明した。「共有者は、原則としていつでも、共有物の分割を請求できます。話し合いがまとまらなければ、裁判所に共有物分割訴訟を起こすことができます」。裁判所が分割の方法を決める際の順序についても、弁護士は触れた。
「まず検討されるのは、土地を分ける現物分割ですが、底地を分筆すると借地権の範囲との関係で難しいことが多いです。次に、誰かが他の共有者の持分を買い取る賠償分割。それもできない場合に、土地全体を競売にかけて代金を分ける、競売分割が選ばれます」。弁護士は、競売による換価は最終手段であり、一般に市場価格より低くなりやすいことも付け加えた。
達也と健二は、兄弟で争うことへのためらいから、何度も迷った。それでも、このまま放置しても何も変わらないと考え、訴訟に踏み切った。裁判では、誠が、自分が二人の持分を買い取る形での解決を主張した。しかし、誠には、二人分の代金を用意できる資金がなかった。裁判所は、現物分割は適さず、賠償分割も実現の見込みが乏しいと判断し、判決で競売による分割を命じた。
判決が確定した後、裁判所の手続きで、底地全体が競売にかけられた。入札の日を迎えるまで、三人は結果を見守るしかなかった。入札には、底地専門の業者や投資家のほか、借地人も参加した。最終的に、底地を落札したのは、長年その土地に建物を所有してきた借地人だった。落札額は約三千五百万円。業者の提示額よりは低かったが、裁判所の手続きは公正に進み、代金から競売の費用など約二百万円を差し引いた分が、三人の持分に応じて分配された。
手続きの間、三人は何度も顔を合わせたが、感情的な言い争いは、不思議とその頃にはなくなっていた。三兄弟の受け取りは、それぞれ約一千百万円ずつ。誠は、「借地人の方が買ってくれたのなら、父も許してくれるだろう」と、静かに話した。仏壇に手を合わせる誠の背中は、少し軽くなったように見えた。達也は、最初から誠と、借地人への売却を含めた条件を話し合っていれば、もっと高く売れたかもしれないと悔やんだ。競売による分割は、確実に現金化できる反面、価格が下がることがある。
共有の底地は、一人が反対するだけで、売却も活用も止まってしまう。話し合いで解決できるなら、それが最善であり、訴訟や競売は最後の手段だと、達也は今では考えている。早い段階で全員の意向を確認し、借地人への売却などの選択肢も含めて検討しておくことが、家族の関係と資産の両方を守ることにつながるのだと、三兄弟は学んだ。
学びのボックス
| 共有物分割請求 | 共有者は、原則としていつでも共有物の分割を請求できる。協議がまとまらなければ、裁判所に共有物分割訴訟を起こすことができる。 |
| 分割の方法の順序 | 裁判所はまず現物分割、次に賠償分割(一人が他の持分を買い取る)を検討し、いずれも難しい場合に競売による分割(換価分割)を命じる。 |
| 競売分割の仕組み | 判決後、土地全体を競売にかけ、落札代金から費用を差し引いた額を、持分に応じて共有者に分配する。 |
| 競売分割の注意点 | 確実に現金化できる一方、一般に市場価格より低くなりやすい。借地人や業者が落札することもあり、結果は事前に読めない。 |
| 訴訟前の備え | 共有底地では一人の反対で売却・活用が止まる。早い段階で全員の意向を確認し、借地人への売却なども含めて話し合うのが最善。 |




