『借地上の建物倒壊』被災時の借地権存続と再築承諾の期限
大橋正樹は、父の代から借りている土地に建つ木造住宅で暮らしていた。ところが、大きな地震が地域を襲い、その後に発生した火災によって、自宅は全焼してしまった。幸い家族に怪我はなかったが、長年住み慣れた家を一夜にして失い、正樹は呆然とした。焼け跡に立ち尽くしながら、これからどう暮らしていけばよいのか、見通しがまったく立たなかった。
避難生活を続ける中で、正樹の頭を離れなかったのは、「借地権はどうなってしまうのか」という不安だった。建物が滅失した以上、土地を借りる権利まで消えてしまうのではないか。そして、もう一度家を建て直すことは許されるのか。正樹は、弁護士に相談することにした。
「まず安心していただきたいのは、建物が火災や地震で滅失しても、借地契約そのものが当然に終了するわけではないということです。借地権は、建物がなくなっても、契約期間が残っている限りは存続します」。弁護士はそう説明した。正樹は、最初の不安が少し和らぐのを感じた。ただし、建物が滅失した後に何も対応せずに放置してしまうと、後々の権利関係が不利になるおそれもあるため、早めに動いたほうがよいとも付け加えられた。
「ただし、建物を再築する場合には注意が必要です。借地権の残りの期間を超えて存続するような建物を新たに建てるには、原則として、地主さんの承諾が必要になります。地主さんが承諾してくれれば、借地権は、承諾があった日または再築された日のいずれか早い日から二十年間存続することになります」。弁護士は続けた。
正樹が地主の安田さんに再築の相談をすると、安田さんは、「今回の災害は気の毒だが、この機会に土地を返してもらいたいと考えている。再築の承諾は出せない」と、意外な返答をした。正樹は途方に暮れた。地主の承諾が得られなければ、家を再建することはできないのか。
「地主さんが承諾してくれない場合でも、諦める必要はありません。借地人は、裁判所に対して『再築許可の申立て』を行うことができます。裁判所が、借地人に再築を認めるべき事情があると判断すれば、地主の承諾に代わる許可を与えてくれます」。弁護士はそう説明した。この手続きは借地非訟事件と呼ばれ、裁判所が当事者の事情を総合的に考慮して、許可の可否や条件を判断するものだという。
さらに弁護士は、災害の規模が特に大きく、国が特別措置の対象として指定したような場合には、被災した借地人を保護するための特別な法律が適用されることもあると教えてくれた。「大規模な災害で建物が滅失した場合、一定期間、借地権を第三者に対抗できる特例が設けられていることもあります。今回の災害がその対象になるかどうかも、確認しておく必要があります」。
正樹は弁護士のサポートを受けながら、裁判所に再築許可の申立てを行った。申立てでは、被災後も同じ場所で生活を再建したいという切実な事情や、これまで長年地代を滞りなく支払ってきた実績などを丁寧に主張した。数か月に及ぶ審理を経て、裁判所は、地主の承諾に代わる許可を与える決定を下した。
この経験を通じて正樹は、災害で建物を失っても、借地人には再築を認めてもらうための法的な手段が用意されていることを知った。地主との話し合いが難航しても、あきらめずに専門家に相談し、必要な手続きを踏むことの大切さを、正樹は身をもって理解した。許可を得た後、正樹は同じ場所に新しい家を建て始め、完成した家で家族とともに再び暮らし始めた。地主の安田さんとは、その後もぎこちない関係が続いているが、地代の支払いだけは変わらず誠実に続けている。
学びのボックス
| 建物滅失でも借地権は当然には消滅しない | 災害で建物が滅失しても、契約期間が残っている限り借地権は存続する。 |
| 再築には地主の承諾が必要 | 残存期間を超えて存続する建物を再築するには原則として地主の承諾が必要で、承諾があれば借地権は承諾日または再築日のいずれか早い日から20年間存続する。 |
| 承諾が得られない場合の再築許可の申立て | 地主が承諾しない場合でも、借地人は裁判所に再築許可(地主の承諾に代わる許可)を申し立てられる(借地非訟)。 |
| 裁判所の判断 | 当事者の事情を総合的に考慮し、許可の可否や条件を判断する。長年の地代支払い実績や生活再建の事情が考慮材料になる。 |
| 大規模災害時の特別措置 | 国が指定した大規模災害の場合、借地権を第三者に対抗できる期間の特例など、被災した借地人を保護する特別な法律が適用されることがある。 |




